文春オンライン

「日本の子どもは孤立している」児童養護施設出身者の“クモの糸”を増やすには

社会的養護の「その後」#2

note

 今年の2月25日に、東京都渋谷区の児童養護施設「若草寮」施設長の大森信也さん(46)が同施設出身の男性(当時22)に刺殺される事件が起きた。事件を起こした際、男性は無職で、ネットカフェで寝泊まりしていた。男性は精神鑑定の結果などを踏まえ、今年の5月に不起訴処分となった。

 報道からは男性が経済的に困窮し、孤立していた状況が読み取れる。退所後の自立に困難を感じることは、児童養護施設出身者にとって決して珍しいことではない。

 前編では今回の事件を受け思うことについて施設出身者に話を聞いた。後編では、ここ数年で変化している退所後支援の現状や、今後のあり方についてNPO関係者、児童養護施設関係者に話を聞いた(前後編/前編も公開中)。

ADVERTISEMENT

◆ ◆ ◆

 前編で山本さんが「(卒園した)当時はまだ進学を支援する制度があまりなかった」と話したのには理由がある。児童養護施設者の退所後支援は、ここ数年で変化しているのだ。

 2004年頃から退所後支援に関わってきた、NPO法人ブリッジフォースマイル代表の林恵子氏が語る。

NPO法人ブリッジフォースマイル代表・林恵子さん

3つの点で前進した退所後支援

「ここ数年で3つ大きく前進した点があります。

 まず、大学進学のための金銭的支援が増えてきたこと。公的、民間ともに、奨学金や貸付金が増えていたり、大学も学費減免制度を整えたりしています。以前は全国で25%前後だった高校卒業後の進学率が、昨年3割を超えました。

 2つ目は、退所後支援をNPOなど外部団体に委託できる予算がつくようになったこと。以前は、退所者の支援も施設に任されていて、施設職員は入所児童の面倒をみながら、退所者のケアはほとんど持ち出しでやらなければならなかった。日々の業務がある中で、さらに『退所者の相談に乗らないといけない』などとなると現場の負担が重かったわけですね。今は厚労省主導で、退所後支援を専門とする『自立支援事業所』を各都道府県、政令指定都市に1つずつ設置しましょうという流れになっています。

 3つ目は、施設内での退所後支援も手厚くなっていること。まだ東京都など一部の自治体のみですが、自立支援コーディネーターという役職の人を1施設につき1人配置できる予算がつきました。他にも、以前はほとんど下りなかった『措置延長』という、進学等で生活が不安定な人は20歳まで施設にいていいですよ、という許可が、かなり下りるようになってきました」

 

 こうした背景には、2004年の改正児童福祉法が施行されたことや、「引きこもり」の社会問題化で、若者の自立全般への関心が高まってきたことが関係しているという。以前に比べて前進してはいるのだが、それでも課題は残る。