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「苦しいのはわかるけど……」児童養護施設長刺殺が彼女たちに衝撃を与えた理由とは

社会的養護の「その後」#1

 今年の2月25日に、東京都渋谷区の児童養護施設「若草寮」施設長の大森信也さん(46)が同施設出身の男性(当時22)に刺殺される事件が起きた。

 2012年3月から2015年3月まで同施設に入所していた男性は、「施設に恨みがあった。施設関係者なら誰でもいいと思い、殺すつもりで刺した」などと供述。また、退所してからも施設職員に金や仕事の話をされることに対し「ストーカーされた」と話していたという。

施設長の大森信也さんが刺殺された児童養護施設「若草寮」 ©時事通信社

 報道によれば、男性は昨年9月、家賃を滞納するなどしてアパートを退去させられ、その際に同施設職員が対応した。事件を起こした際、男性は無職で、ネットカフェで寝泊まりしていた。男性は精神鑑定の結果などを踏まえ、今年の5月に不起訴処分となった。

 事件の後、児童養護施設関係者の間で波紋が広がった。被害者の大森さんが児童養護施設出身者の自立支援に精力的に活動している人物としてよく知られていたからだ。

 さらには、児童養護施設出身者の間では、事件に対し「他人事と思えない」という声もあがった。報道からは男性が経済的に困窮し、孤立していた状況が読み取れる。退所後の自立に困難を感じることは、児童養護施設出身者にとって決して珍しいことではない。

「生活や将来の不安について」に「困っている」と51.5%が回答

 2017年2月に発表された、東京都福祉保健局が児童養護施設出身者を対象に実施したアンケートでは、 「生活全般の不安や将来の不安について」、「大変困っている」「少し困っている」と51.5%が回答した。他にも「衣食等の費用に関すること」(32.2%)、「孤立や孤独感について」(30.2%)、「心身の健康問題について」(31.1%)等も高い(「東京都における児童養護施設等退所者の実態調査報告書 」より)。

 全世帯では8割の大学・短大や専門学校など高等教育への進学率は、施設出身者の場合約3割。そのうち26.5%が4年以内に中退してしまう。就職者も、48.7%が3年以内に離職してしまうのが現状だ。

 今回の事件を受け思うことや、退所後支援について、施設出身者や、自立支援に携わるNPO関係者、児童養護施設関係者に話を聞いた(前後編/後編は続く)。

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「正直、なにしてくれてるんだ、という気持ちだった。『施設出身だからああなっちゃったのかな』って偏見を持つ人も、世の中の大多数ではないけど、いる。ああいう人のせいで、ちゃんとやってる子たちがそういう目で見られるっていうのが、本当に腹が立っちゃって」

みずほさん ©深野未季/文藝春秋

 そう事件について話すのは、児童養護施設出身のみずほさん(27)だ。