大きな反響を呼んだ「“バチカンの 悪夢”が日本でもあった! カトリック神父『小児性的虐待』を実名告発する」(文藝春秋3月号)の発表から2か月、日本のカトリック教会の全国組織が国内の被害の実態調査に向けて動き出す。
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事前の予定にはない“和解”の瞬間だった。
「聖職者によって性的虐待を受けた人が勇気を持って語ってくださった。深い敬意を表したい」
黒いブレザーの首元に白いローマンカラーをのぞかせた大司教が壇上で、頭を下げた。その視線の先の前列にいた白い口髭の男性は、おもむろに歩み寄り、2人は手を握りあった。
――4月7日、都内で開かれた性虐待をテーマにした集会に姿を見せたこの聖職者は、高見三明・長崎大司教(73)。日本カトリック司教協議会の会長の職にあり、800近くある日本のカトリック教会を統括する立場にある。そして握手を交わした相手は、54年前の小学4年当時、在籍した児童養護施設「東京サレジオ学園」でドイツ人神父から1年間にわたって性的虐待を受け続けた体験を訴え出た竹中勝美さん(62)だった。
きっかけは文藝春秋のスクープ
男性神父が未成年に性的関係を迫る性的虐待は米国、アイルランドなどカトリック信徒が多くいる国々を中心に十数か国に広がっているが、これまで被害が露見していない日本では、信徒にとっても“対岸の火事”と受け止められてきた。
思い込みを根底から覆したのが、竹中氏による実名告白だ。親が離婚し母が入院していた竹中さんはイタリアに本拠を置く修道会「サレジオ会」が運営する児童養護施設で中学卒業までの9年間を過ごした。施設の園長だった長身の白人神父は、いじめられ孤独だった竹中少年の心理に巧みにつけ込み、祭服姿で性行為を強いていた。
竹中氏が語った驚くべき実態を、私は文藝春秋(3月号、発刊は2月9日)誌上に12ページにわたって書いた。レポートが発表されると、信徒や聖職者のみならず、プロテスタントの牧師、仏僧など他宗関係者にまで反響が広がっていった。奇しくも2月下旬にはバチカンで、世界の大司教を集めた「未成年者保護会合」が開かれてもいた。日本代表として出席した高見大司教は、帰国後にしたためた竹中さんへの手紙に「話を聞きたい」と書き、開催を知らされた報告集会に、長崎からかけつけることを決めたという。
この日、聴衆席で竹中氏の体験を改めて直接聞いた高見大司教は、マイクを渡されると「私たちが充分なことができず、苦しい思いをさせていることを本当に申し訳ないと思っております」と述べた。