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子どもへの性虐待にどう立ち向かうか

 ひとたび被害を受けたら、もはや癒しへの希望はないのだろうか。この日の集会に、解決に向けたヒントはあった。性トラウマ治療が専門の精神科医、白川美也子氏は講演で、指導者から性関係を強いられた子どもの心理をひもといた。

「子どもは性虐待に遭うと(被害者なのに)自責の念を持ちやすい。幼い時期は違和感でしかないが、思春期以降、性の目覚めによってトラウマとして意識されてくるのです」

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 問題は加害者が、尊敬や愛着を抱く神父だったという点だ。

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「愛着を持っている人からの被害というだけで子どもは混乱し、気持ちが話せなくなります。体験を咀嚼できないから、心の中で記憶を切り離し、日常の自分とは壁で隔てられた場所に“冷凍保存”する。このため、性虐待は記憶を失う『解離』という症状が起きやすいのです」

 そう語る白川医師の分析に竹中氏の姿が重なる。家庭に困難を抱えた子どものための養護施設で、しかも生き方を指し示してくれるはずの宗教者による行為だった。二重、三重に傷ついたはずだ、というのが白川医師の見立てだ。

 また時間を経て記憶の冷凍保存が溶けたとしても、その事実を申し出るには二次被害のリスクも覚悟しなければならない。竹中さんがそうだったように、加害者が所属する教会組織に対して名乗り出るのは簡単なことではない。

 こうした難しい構造を背景に、深刻な被害が表面化した国々では教会でなく司法や研究者など「独立した第三者機関」に委ねるかたちで調査が進んでいる。米国ペンシベニア州の大陪審は昨年8月、1000件以上の被害を明らかにしたほか、9月にはドイツの研究機関も3600人以上の未成年者への虐待を突き止めている。対する日本では過去、内部調査に対して2002年に2件、2006年に17件、2012年に5件の被害報告があったにも関わらず、独立した機関による客観的な事実確認がなされたことはない。

 文藝春秋誌上での竹中さんの告発は、こうした姿勢からの転換を求めるものだった。

 この日、高見大司教から「一つの回答」が示された。過去のアンケートで被害報告があった案件について、担当の司教や修道会がどう対応したかを至急確認することを4日の常任司教委員会で申し合わせたというのだ。さらに加えて、その後も被害が起きていないか全16教区に問うことも示唆した。調査方法については今後、検討するという。