在留資格を得るために国際結婚を望む女性がいることは広く知られているだろう。しかし、彼女たちがどのようにして成婚にたどり着くのか、その内情は不透明だ。

 ここでは、紀実作家の安田峰俊氏による『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(角川新書)の一部を抜粋。国際結婚を仲介する業者の手口を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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業者と接触

「はじめまして。ベトナム人妻をお探しですか?」

 ここはベトナム南部、メコンデルタ地方で最大の都市・カントーにあるホテルの一室だ。私のスマホのZalo(LINEに似たベトナム製のメッセンジャーアプリ)の画面に、現地の結婚エージェントからの日本語の文章が表示された。

 私が「はい」と打ち込むと、連続して受信音が鳴り、同じ女性の写真が一気に10枚も送られてきた。どれも写りが異常にきれいだ。画像修整ソフトで美化しているのだろう。

「この女の子は25歳、日本人N4、結婚歴なし、学歴:大卒」

「身長:1メートル58、体重49キロ」

「タトゥーのない女の子」

 メッセージの「日本人N4」は機械翻訳のミスで、実際は「日本語能力試験のN4」という意味だろう。英検でいう4級相当。一般的なベトナム人技能実習生の日本語能力とほぼ同じである。

 私は結婚相手を探す日本人出張者のフリをして、この業者に直接会って話を聞けないかと持ちかけてみた。

「あなたが好きな女を選ぶ」

「私たちは明日会います」

 翻訳ソフトを用いたらしい生硬な日本語で返事が続く。本来は長く滞在しないと、花嫁希望者の女の子に面接したり家族と交流したりはできないそうだが、とにかく業者から事情を聞くことはできそうだった──。

ありえないプロフィール

 すでに書いたように、在留資格の問題は出稼ぎベトナム人たちの大きな悩みの種である。技能実習、留学、技人国・特定技能……と、各種の在留資格にはそれぞれデメリットやハードルの高さがあるためだ。

 そこで、「結婚」という荒業を選ぶ人がいる。日本人の配偶者としての在留資格を得れば、就労時間や職種の制限がいっさいなくなるからだ。

 出稼ぎ目的の結婚のパターンはふたつある。

 ひとつは、書類上の「配偶者」とはほとんど顔も合わせず籍だけを入れる、文字通りの偽装結婚だ。女性の場合は相手の日本人男性に50万円程度、男性の場合は相手の日本人女性に数100万円の支払いが必要になるというが、入管の警戒も厳しい。ハイリスクな手段と言えるだろう。

 もうひとつの方法が、冒頭のようなお見合いサービスを通じて日本人と結婚し、実際の夫婦関係を築くパターンだ。いわば、恋愛結婚と偽装結婚の中間形態である(なので、もともとはお金や在留資格が目的だったはずが、結婚後は夫婦として幸せに暮らしてしまうケースもありうる)。