一族揃って出稼ぎに行く

 ところで、こうした花嫁たちはどんな場所から海を越えているのか。

 私たちがもうひとつ取材した場所が、ベトナム北部ハイフォン市の郊外にあるダイホップ村だ。

「娘が台湾に嫁いだのは2005年。相手は建設労働者で、娘より12歳年上のすごく太った男性だったけど……。仲良くやってるよ。子どもも2人生まれた」

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 2階建ての豪奢な自宅の広いロビーで、村人のガン(女性、65歳)はそう話した。屋内にかざられていた巨大な結婚写真のなかで、若い頃の天海祐希に似た美しいベトナム人女性が微笑んでいる。ガンの次女で、23歳で台湾人と結婚したという。

 ダイホップ村は、ベトナムにいくつかある海外向けの「花嫁村」のひとつだ。

 もとは海辺の貧村だったというが、2005年ごろから台湾や韓国へ嫁ぐ女性が急増した。ベトナム国内の『越南法制』というニュースサイトによると、村で生まれた結婚適齢期の女性の約3分の1が外国人と結婚し、10年間で村の貧困率は13パーセントから5パーセント以下に激減したという(15年8月22日の報道当時)。

 事実、現地を歩いてみると、都市部から離れた村にもかかわらず、ガンの家を含めて瀟洒な家屋が立ち並んでいた。集落の中心には、5階建てビルくらいの高さがある真新しい教会もそびえ立っている。村人の寄付が多いのだろう。

 もっとも、20歳前後の女性が、相手が誰かもわからない異国の男性に嫁ぐことには、ベトナム国内でも批判がある。10年ほど前までは、花嫁候補者の女性数十人を全裸でズラッと並ばせ、韓国人や台湾人の男性に選ばせるような悪質な仲介業者も存在しており、ときおり逮捕者も出ていた。

©Paylessimagesイメージマート

 また、女性が嫁ぎ先でDVに遭うなどして、離婚して子連れで村に戻ったものの、異国で育った子どもはベトナム語ができずに孤立して──といった悲劇もすくなからずあるという。

「でも、うちはひどいことはなかった。韓国は寒くて、料理が口に合わないし、夫のDVが多いって噂もある。けど、台湾は気候や食べ物がベトナムと近くて、人も優しい。私も長く暮らしたからわかるよ」

 ガンは明るく話す。彼女やほかの村人によると、国際結婚は男性側の持参金そのものの収入よりも、一族揃って先進国に出稼ぎに行く道が開けることが最大の魅力なのだという。

 このガン夫妻についても、次女の結婚後に親族訪問ビザで台湾に渡航し、そのまま現地に残って10年間も不法就労を続けた。さらに息子や親戚の男の子たちも労働者として台湾に渡航して、一族でがっつりと稼いだ。

 2020年、ガン一族はベトナムの平均年収の14倍以上の金額である11億ドン(約650万円)を投じて、ダイホップ村に“豪邸”を建てた。

 同じ不法滞在と不法就労でも、日本の農村で季節労働者として働いているボドイたちとは雲泥の差を感じる話である。

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