今年1月、ミャンマー東部の中国系詐欺拠点で日本人が働かされていたことが報じられ、衝撃が広がった。その後、宮城県や愛知県の高校生が「高給の仕事」と騙されて連行され、詐欺行為を強制されていたことも判明した。一方、現地を支配する軍閥や隣国のタイからの圧力が強まり、詐欺拠点から外国人が“解放”されるニュースも相次いでいる。
とはいえ、多くの日本人にとってこの話はピンとこないだろう。現場は内戦中のミャンマー東部。地名を聞いても、日本の一般人には馴染みがないはずだ。そして「中国系詐欺拠点」という言葉も、漢字だけでなんとなくわかったような気になるものの、やはりよくわからない。
私は2月末、『週刊現代』(講談社)の依頼で、この問題を取材するため東南アジアに渡った(同誌3/15・22号記事も参照)。今回は主に中国ライターの視点から、世間で話題の中国系詐欺拠点問題について解説していこう。Q&A形式でお送りしたい。
密航がおおっぴらにおこなわれる地域
──そもそも、報道されている場所はどこなんでしょうか?
ミャンマー東部、タイ国境に面した都市であるミャワディ付近です。タイ側の街はメーソットといいます。ミャワディはミャンマー領内とはいえ、実際のアクセスはタイからのほうが便利です。正規に渡航する場合はイミグレーションを通じて陸路での国境越えをおこないます(ここ半月ほどは国境管理が厳重であり、渡航は推奨できません)。
もっとも、タイとは幅数十メートル程度の小さな川で接しているだけ。村人の渡し船で行き来が可能であり、地元の人や「詐欺拠点」に送り込まれる労働者はこうした手段で渡航する場合も多いようです。厳密には「密航」ですが、そうしたカッチリした理屈があまり通用しない地域です。
日本の報道のずっと前から有名だった!
──ミャワディ付近の中国系詐欺拠点の実態を教えて。
ミャワディ周辺も半径10キロくらいの範囲に、30~50拠点くらいその手の詐欺団地や詐欺オフィス(「園区」と呼ばれます)が存在します。
内戦中で中央政府(2021年2月のクーデター以降は軍事政権)の支配が地方にほとんど及ばず、詐欺拠点が各地の軍閥の資金源になりやすいことが理由です。詐欺グループは現地の軍閥と結びついており、軍閥側に土地代や警備費用を支払う関係であるケースも多いようです。