とはいえ、私自身もミャンマー国境付近の検問所で、園区で働いている中国人を至近距離で見ています。会話内容を聞いた限り「自発的な出稼ぎ」と判断せざるを得ない感じでした。また、2月26日に詐欺拠点で見つかった30代後半の日本人も、当初「帰りたくない」と話していたとされ、やはり自発的な渡航者とみていいでしょう。
「自発組」と「騙され組」の比率は不明ながら、前者は相当多いと考えられます。特に中国人については、自分から来ている人がほとんどではないでしょうか。某国の中国系詐欺拠点が多い街では、多額の詐欺に成功した従業員を街を挙げて祝う事例もあります。強制労働だけでは説明できません。
「仕事できないヤツは殴る」
──虐待や暴行のニュースも聞きますが。
ミャワディ付近の詐欺拠点のテレグラム(匿名性の高いコミュニケーションアプリ)には、鞭打ちなどの凄惨な虐待を受けた人物の写真がいくつも流れています。また、現地で働かされていた日本人の男子高校生も、スタンガンで脅されていたと証言しています。
詐欺拠点は名目上は「企業」ですが、当然ながらブラック企業(日本の甘っちょろい基準ではなく“中国基準”のブラック)です。現地で詐欺グループに近い人たちから話を聞いても、業績が悪かったり反抗的だったりする従業員が暴行されているのは明らかです。
経営者や管理者の理屈としては、従業員の食事や寮を負担し、また詐欺師として一人前になるまで数ヶ月程度は研修期間(タダ飯を食わせる期間)もあるため、「それで仕事ができないヤツは腹が立つので殴る」とのことです。仕事ができない従業員は、他の会社(=詐欺拠点)に売り飛ばされるケースもあります。
ほか、やや都市伝説めいた話ながら、役に立たない従業員の血を抜いて売ったり腎臓を売り飛ばすケースもあると噂されます。2000年代までの中国ではよく聞かれた話なので、「損害」の回収のためにおこなっていてもそれほど不思議ではありません。