中国の「悪い人」は東南アジアを目指す
──なぜ東南アジアがそうなっているんですか?
遠く明朝の時代から、東南アジアは中国本土を追われた人たちがしばしば逃げ込む土地。前近代から、中国系のアウトローやブラックな財閥、(ミャンマーの中国国境の中国系の)軍閥などの活動が盛んです。彼らは国境をこえてカネや情報・人脈がつながっています。カンボジアからラオス、ミャンマーにかけて広がる中国人アンダーグラウンド社会を、私は「中華暗黒ベルト」と呼んでいます。
そこに近年、新たなファクターとなったのが習近平政権です。2013年に成立した習近平政権は、中国国内で大規模な腐敗摘発政策と極度の監視社会化を進め、結果的に中国の社会は一昔前と比較して非常にクリーンになりました。しかし、それならば従来、中国国内に大勢いた「悪い人」(および関連産業に従事する人)たちはどこに消えたのか。
答えのひとつが、「中華暗黒ベルト」への脱出です。習近平政権の一帯一路政策のもとで中国資本の進出やインフラ整備が盛んになったのも追い風となり、東南アジア(特にミャンマー、ラオス、カンボジア、フィリピン)には、中国国内の「悪い人」が流れ込みます。いずれもガバナンスが脆弱で外国人を取り締まる能力が低い国で、食文化も近く物価も安い。彼らには理想の新天地です。
さらに、中国との国境は管理が弱いこともあって、中国国内で「詰んだ人」たちも、密航を含めて大量に流入しました。東南アジアの各国で中国系の詐欺拠点が大量に生まれたのは、そうした理由があると考えられます。彼らは地場の華人系ブラック財閥や軍閥と結びつくことになりました。
──今回の報道ラッシュで、詐欺拠点は根絶されるのでしょうか。
売り上げが大幅に下がったと聞いています。とはいえ、取り締まりは「茶番」で、ニュースもやがて減る。ミャンマー東部の詐欺拠点はすこし下火になるかもしれませんが、詐欺拠点は「中華暗黒ベルト」の他の地域に移って、まだまだ続いていくでしょう。
日本人としては、闇バイトなどで怪しい仕事に応じないことと、怪しい電話やメールに騙されない用心が必要です……。と、言うよりほかありません。
