もっとも、中国系の人々が関与するオンライン詐欺拠点は、実はミャンマーの東部や東北部、さらにラオスやカンボジア、フィリピン、タイなどのあちこちにあります(理由は後述します)。また、この問題自体も2022年ごろから華人圏では有名でした。

ミャンマー以外にも詐欺拠点は多い。こちらはラオスの中国系都市「金三角特区」。ビルの電気がついている部屋はすべてオンラインカジノ詐欺の拠点である。2025年2月25日、安田撮影

 なのに、今年になってから日本の報道がミャワディにばかり注目しているのは、「日本人が働いているのがわかったから」という国内的な事情のためです。本来はずっと前からあちこちでやっていたわけです。

“解放”は「仕事ができないヤツをクビにしているだけ」

──最近、「捜査により外国人●千人が釈放」といったニュースもよく聞きますが……。

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 そもそも捜査をしているのは現地の軍閥なので、きつい言い方をするなら「茶番」です。みかじめ料を取るヤクザが自分のシマのぼったくりバーを「捜査」しているようなものですから。

 現地で詐欺拠点と関係が深いアウトロー系の中国人複数に話を聞いたところ、外国人の「解放」については「仕事(=詐欺)の業績が悪いやつをクビにしてるだけ」という、身も蓋もない説明が返ってきました。なお、私が話を聞いた相手の一部は、有名な「KK園区」の管理職層とコネクションがあるような人たちです。

詐欺拠点とのコネを作るため、東南アジア某国の「悪い人」(中国人)に取材中。もっとも、蛇頭やマネロン程度は「悪い」に入らない世界である。2月某日、安田撮影

 彼らによれば、ミャワディ近辺だけでも中国人数十万人(加えてラオスやカンボジアなど他の地域の拠点でも中国人数十万人)が働き、さらに中国人以外の外国人もいるとのこと。外国人の人数は不明ですが、間違いなく万単位はいるでしょう。詐欺拠点の雇用者視点でいう「仕事ができない人」たち数千人を釈放したところで、氷山の一角です。

中国人数十万人がみずから詐欺に

──数十万人以上の人たちが、強制的に詐欺に従事させられているわけですか。

 おそらく違います。現地で詐欺グループに近い人々と、中立的な中国人ジャーナリストの双方から話を聞くと、詐欺従事者の中国人のうちかなり多くは自発的に来ているとのこと。また、外国人でもとりわけアフリカ系や南アジア系の人たち(英語ができるため欧米向けのロマンス詐欺やオンラインカジノ詐欺の適性が高い)は、スカウトに応じて出稼ぎに来た人も多い模様です。

 もちろん、詐欺グループに近い人たちは利害関係者なので、話は割り引いて理解する必要があります。また、日本人の高校生が働かされていた例など、明らかに騙されて詐欺拠点に連れ込まれたと思える事例も確認されています。