「振り込め詐欺をやってる連中は、蓄えたカネでせっせとポケモンカードを買い漁っているよ」と語るのは、某指定暴力団の二次団体元幹部。子どものおもちゃをなぜ闇社会の人間が集めるのか? その特殊事情を、ライターの奥窪優木氏の新刊『転売ヤー 闇の経済学』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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マスクと医療用手袋をつけて作業する男たち
パチンコ以外には暇つぶしの手段もなさそうな、ごくありふれた関東近郊の国道沿いに、その古びた木造2階建ての倉庫は立っていた。
2023年5月。そこを訪れた筆者は、ペンキで書かれた「○○玩具商店」の文字がかろうじて読めるステンレス製の引き戸を開ける。湿った古簞笥のような、かびた臭いが漂うなか、折りたたみ机に向かって2人の若い男性が並んで座っていた。机にはビニールシートが敷かれ、そのうえにアニメテイストのイラストが描かれた紙箱が大量に積まれていた。ざっと数えても40箱以上はあるだろう。
男性たちはマスクで口を覆い、手に青い医療用手袋をはめ、箱の中からキラキラした小袋を取り出していく。官製はがきより一回り小さい小袋には箱と同様のイラストが施されている。
1200個ある小袋を全て出し終えると、小型のアイロンに似た装置で、その表面を撫でるように動かしていく。すると、何袋かに1つの割合で、装置が「ピーッ」という音を立てて反応した。3度、4度となぞるうちに反応する場合もあるようで、1つの小袋に何度も装置を押し当て、箱ごとに、反応の有無で小袋を分けて机の上に積み上げていった。
紙切れが527万ドルに
彼らは、ポケモンカードの転売集団である。小袋は、カードが5枚入った「パック」だ。パック30個で、1箱(1ボックス)分となる。
ゲームソフトやアニメで知られる、ポケットモンスターをテーマにして1996年に誕生したポケモンカード。2人での対戦を基本に交互にカードを出すターン制で行われる「ポケモンカードゲーム」で使用するトレーディングカードである。
1、2ヶ月毎のペースで新シリーズが発売されるポケモンカードは、2024年8月12までに世界で約2万種類、648億枚以上のカードが出荷されているといわれ、世界大会も開催されるほどになっている。
そしてゲーム以上に白熱を見せたのが、カードの転売市場というわけだ。