「みなさん、すみませんがSupremeはなしになりました。今から池袋のビックカメラにポケモンカードを買いに行きます」
ホームレスを使ってまで「ポケモンカード」を買い集める転売屋の手口とは? 取材のため2021年7月23日~9月23日までの約2ヶ月間をホームレスとして過ごしたライターの國友公司氏の新刊『ルポ路上生活』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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ポケモンカードの転売屋
飯場、日雇い、ビッグイシューの販売、ダンボール手帳など、正規の仕事以外にホームレスが金を稼ぐ方法といえば、やはり空き缶集めのイメージが強い。しかし、空き缶集めの仕事は隅田川の高架下にいたホームレスが言うように、小屋を立てて一つの場所に定住しているホームレスが主に行っている。
今の私と同じように日中はどこかに浮遊し、夜になるとどこかで寝る移動型のホームレスはなかなか手を出しづらい仕事だ。では移動型のホームレスが正規の仕事以外で稼ぐ方法はないのか。
一つは私がこれからター坊とありつこうとしている転売屋の買い付け。中国人観光客の爆買いがブームになったときは、彼らの代わりに商品を買い付けて来る仕事が多かった。もう一つは、パチンコ抽選の代理。パチンコ屋の前には朝早くに行列ができていることがあるが、買い付けと同じく頭数要員でホームレスが呼ばれる。一度並ぶごとに大体千円、日に何店舗か回ることが多い。
「拾い」と呼ばれる、街中で拾った雑誌や衣類などを売る仕事もあるが、こちらは衰退気味だ。そもそも売れるようなものがその辺で拾えるような時代ではなくなったし、拾ったものを買ってくれるような人もかなり減ったのだという。
これは完全に非合法だが、特殊詐欺の連中が「仕事をしないか?」とホームレスに声を掛けてくることもある。黒綿棒は以前、オレオレ詐欺の出し子(被害者が振り込んだ金をATMから引き出す役)の勧誘を受けたことがある。実際に誘いに乗り、出し子を請け負ったホームレスもいたと黒綿棒は話していた。
朝5時に地下広場を出たが、集合時間まではまだ2時間もあるので、小滝橋通りのすき家に入り、朝飯を食べることにした。私は牛丼並盛を注文し、3分ほどで食べ終わったが、ター坊はまぜのっけ朝食を10分以上かけて食べている。口に飯が入っているときですら喋りたくて仕方がないのだ。
小銭がなかったので私が千円札を店員に渡すと、ター坊は店内に通るような大声で、「お、クニちゃん、おっ金持ちぃ~!」と私の背中をドンと叩いた。早朝の牛丼は貧困の味がした。