時間になり、待ち合わせ場所に着くと、私を入れて全部で14人のホームレスが集まっていた。7時を過ぎても一向に藤本が姿を現さず、40代くらいの若いホームレスが「藤本、アイツまたやりやがったな」と鼻息を荒くしている。
そのホームレスに聞くと、藤本のような転売屋の末端(ホームレス担当)はほかにも何人かいて、その中でも藤本が群を抜いて出来が悪いのだという。時間が勝負の買い付けにこのように遅刻してくるし、とにかく要領が悪いそうだ。
1日の稼ぎは5000円
ホームレスたちが藤本の要領の悪さにイライラするのには理由がある。
たとえば今回のポケモンカードの買い付けの場合、購入した際にもらえる領収書1枚を藤本に渡すと1000円がもらえる。一日の買い付けで平均して5000円の稼ぎになり、週に3~4回ほど仕事に就けるという。つまり、私たちの給料は藤本の要領にかかっているのだ。
「藤本に電話をしよう」という話になったが誰もスマホを持っていなかったので、私が電話をすると、30分遅れで藤本が到着した。
人数を確認し、券売機で切符を買い全員に配る。渡されたのは760円のJR一日乗り放題(区内)パス。そして現ナマの1万5000円。この金でポケモンカードを買えるだけ買ってとのことだ。上野駅前の寅さんなら間違いなくこの時点で持ち逃げしている。
「みなさん、この切符はなくさないように。なくしたらその時点で帰ってもらうか、自分で切符を買ってもらうことになりますから」
「遅れてきた人間が何を偉そうに言ってんだよ」と野次が飛んだ。手配師とホームレスくらいには力関係に差があるのかと思っていたが、藤本は完全に舐められていた。
「えーと、初めは原宿のSupremeに行きますので。みなさんには店で抽選を受けてもらうんですが、当たった人には2000円、外れた人は申し訳ないけどゼロ円です。駅を降りたら抽選が終わるまで会話はしないでください」
原宿駅から店まで歩く間、ター坊はもちろんのこと、誰一人藤本の言うことを聞かずにベラベラ喋っていた。店の前に着くと、「ちょっと待っててください」と藤本が転売グループの「親」らしき人物と電話をし、「はい、はい、分かりました」と汗をかいている。
「みなさん、すみませんがSupremeはなしになりました。今から池袋のビックカメラにポケモンカードを買いに行きます」
しかし、池袋駅のホームに降りたところで藤本がまた電話を始め、「池袋はやっぱりなしで新宿に戻る」という。新宿駅西口のヨドバシカメラに着くと、すでに200人近い行列ができていた。みんな転売目的なのだろうか。
私たち一行の風貌から何かを察したようで、「ホームレス使ってまで買い占めるなよ」といった顔で睨みをきかせてくる。
「今から渡す紙に書いてある商品を、上から順に買えるだけ買ってください」と、藤本がその場で紙とペンを取り出し、殴り書きした。しかし、字が汚すぎてまったく読めない。「読めねーよ、バカ」とホームレスたちが怒っている。
すると、となりにいた70代くらいのおじいちゃんホームレスが、「私は何回もこのポケモンカードを買いに来ているから分かるよ」と私に商品名を教えてくれた。「シャイニースターV・イーブイヒーローズ・蒼空」と読むらしい。70代のホームレスからそんな単語を聞くことになるとは思いもしなかった。