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 結局、西口のヨドバシカメラはすべて売り切れとなり、誰一人ポケモンカードを買えないまま、今度は東口のヨドバシカメラに行くことになった。

「みんな急いでください。お願いだから付いてきて!」と藤本が走り出した。ター坊だけが藤本と競うように走って行ったが、私もふくめほかのホームレスはタラタラと歩いている。西口が売り切れなら東口も売り切れているに決まっている。案の定、走って向かった藤本とター坊ですら、一枚もポケモンカードを買えなかった。

 ここで藤本の同僚なる男が加入し、藤本組と同僚組の二手に分かれて川口と浦和美園に向かうという。途中までは埼京線で一緒なので新宿駅に入り、駅構内でしばしトイレ休憩。藤本の同僚がスマホを持っていないとのことで、スマホを持っている私が同僚組に付いた。

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 埼京線のホームに着いたところで藤本がまた電話している。

「すみません、川口と浦和美園じゃなくてみんなで幕張に行きます」

 ホームレスたちから舌打ちと溜め息が漏れる。さすがにマズいと思ったのか、藤本が妥協案を出す。

「もう嫌になったという人は1000円渡すのでここで帰ってもいいです。もし、幕張まで来てくれたら、もう1000円渡します」

「俺はもう帰るわ」とホームレスが一人、1000円をもらって帰って行った。ター坊が私のところへ駆け寄ってくる。

「なあ、クニちゃんどうするよ。クニちゃんが1000円でいいって言うんだったら俺もここで抜けるぜ。幕張まで行ってもポケモンカードが買える保証なんてないんだからよ」

「もちろん僕は最後まで行きますよ」

「このまま持ち逃げしちまいそうだよ」

 すでに昼の12時を回っている。早朝であれだけ並んでいるのに今から幕張まで行って買える気はしないが、ほかのホームレスはみんな付いて行くというので私も行くしかない。

 東京駅で京葉線に乗り換える。京葉線はJRのパスが使えないので藤本が全員分の切符を買う。30分ほどで海浜幕張駅に着き、改札を出たところで親から電話が入り、しばらく「ここで待っていて」と言う。それぞれトイレに行くなりプラプラするなりして時間を潰していたが、ここでター坊が突然パニックを起こし、藤本に掴みかかった。

「藤本さんよ、俺1万5000円なんて握らされてたらこのまま持ち逃げしちまいそうだよ。お願いだから店に着くまで預かっていてくれねえか。俺おかしくなりそうだよ」

 いつでも金を持って逃げることはできるが、ここで逃げたら藤本はもう仕事をくれなくなる。ター坊は一日中葛藤していた。すると、「俺も預かってくれ、頼む」と次々にホームレスたちが藤本に金を預け始めた。

 そして、「幕張も売り切れた」との情報が入った。「すみません、2000円と言ったけどやっぱり1500円で」と藤本が言い出し、しばし全員で揉めた後で今日の買い付けはすべて終了。1500円を受け取ったホームレスたちは目の前の売店で酒とツマミを買い、駅のホームで酒盛りを始めたのであった。