迫る日本のカジノ誘致。しかし、そこで喧伝されるメリットばかりに向けると、痛い目を見る可能性も…。ここれでは日本よりも先にカジノを誘致した、韓国とシンガポールにクローズアップ。カジノ誘致はいったい「誰のため」のものなのか? 長年、精神科医としてギャンブル依存症患者とその苦しみに向き合ってきた帚木蓬生氏の新刊『ギャンブル脳』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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カジノがもたらす「負の影響」
もうひとつの先例は、韓国です。2000年当時、韓国には6つの公営ギャンブル(競馬・競艇・競輪・闘牛・宝くじ・体育振興投票券)とカジノが承認されていました。
カジノは国内17ヵ所に設置され、うち1ヵ所、江原ランドだけに自国民の入場が許されるカジノがあります。江原地区はかつて363の炭鉱で繁栄していたのですが、相次ぐ閉山で廃れたため、カジノ誘致に合意したのです。それが1995年でした。
自国民が入場できるのは唯一ここだけだったので、年間売上額が伸び、やがて円にして1200億円に達しました。江原ランドだけで他の16ヵ所の合計を凌ぐ額でした。これは、カジノには自国民を入れない限り、営業は成り立たないという証拠でもあります。
しかし次第に悪影響が表面化してきます。まず自殺者が増え、環境が悪化しました。周辺に金融業者が集まり、質屋も増え、ホームレスが目立つようになります。地元の農家も、カジノやホテルの野菜購入を当てにしていたのが期待はずれでした。ホテルは地元産の野菜や果物を使わず、よそから安く購入するからです。
観光都市になるのを夢見ていたのが逆になり、住民は出て行き、若い世帯は全く住みつかなくなった結果、6万人あった人口も1万2000人までに減ったのです。