「娘はまだ高校生だぞ」
「娘さんとは真剣に交際しています。本当に愛しているんです」
なぜ16歳の娘はバツ2の無職男性(当時38)と交際していたのか? 彼女を助けようとした父親がとった驚きの行動とは? 2009年の殺人事件の顛末を前後編に分けてお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/後編を読む)
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なぜ父親は「娘の交際相手」を刺したのか?
「娘の交際相手を包丁で刺した。まだ息をしている。救急車を呼んでほしい」
興奮した男の声で、こんな110番通報がかかってきた。地元署員が現場の民家に駆け付けると、青山博(38)が血まみれになって倒れていた。現場にいた熊野駿介(42)が「自分が刺した」と認めたため、殺人未遂容疑で逮捕された。青山は病院に運ばれたが、3時間後に出血性ショックで死亡した。
熊野の娘のミユキ(16)は中学を卒業する頃、携帯電話のゲームサイトで青山と知り合った。青山は年齢を隠し、サイト内のミニメールを通じて頻繁にミユキに連絡を取り、言葉巧みにミユキを誘い出した。
会ったその日にホテルに連れ込み、肉体関係を持ち、写真を撮った。そして、今度はそれをネタにして交際の継続を迫り、会うことを強要するようになった。
青山には子どもが2人いたが、バツ2の生活保護受給者だった。ミユキは青山とデートする度に金を無心され、お年玉貯金を切り崩して、なけなしの数万円を貸していた。ミユキが「もうお金がない」と断ると、「親の金を盗め」と強要された。青山はミユキから父親が経営する自動車整備工場を聞き出し、客を装って偵察にも出かけていた。
「お父さんに会ったよ。真面目そうな人だね。オレと付き合っていることが分かったら、何て言うかな?」
そんな秘密の付き合いを半年ほど重ねていたのだ。