新宿駅からわずか2駅、最寄り駅から徒歩4分。都心の人気のヴィンテージマンションシリーズにもかかわらず、相場に比べて格段に安価なマンションがあった。その理由は、管理組合の理事たちによる30年近い“独裁的な管理”と、そこで強制される大量の謎ルールにあった。

 住民たちはマンションの自治を取り戻すべく立ち上がり、無事に“政権交代”を実現。現在は資産価値も上昇している。

 いったいそのマンションには、どんなルールがあったのか。管理組合と闘った住民たちの結末とは——。ノンフィクションライター・栗田シメイ氏の著書『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(毎日新聞出版)より一部を抜粋・再編集して紹介する。(全2回の2回目/1回目から読む)

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写真はイメージです ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

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総会で約30年ぶりの管理費増額が可決された

 2018年2月21日に開催された総会は、秀和幡ヶ谷レジデンスの歴史において分水嶺(ぶんすいれい)となる。 

 今井は体調を崩し、何年かぶりに総会を欠席していた。参加した桜井にとっても、この日も毎年となんら変わらぬ見慣れた総会でしかないはずだった。

 開会時刻の17時の少し前に席につき、ぼんやりと進行していく様子を眺めていた。序盤ではいつものように住民たちの意見を遮(さえぎ)るように、理事長が金切り声で怒鳴っている。反対意見は軒並み排除されていく。

 ところが、中盤に差し掛かる頃、あることに気づいた。発言者の声に聞き覚えがない。 

 そこで改めて会場を見渡して、例年とは異なる面々が参加していることに気づいた。それも1人や2人ではない。

「毎年の総会と比べると、明らかに声を上げる人の熱量が違ったんです。参加している住民たちが、本気で理事会に対して抗議しているのが感じ取れた。何かが変わるかもしれないと感じました」

 毎年の通常総会と今回(18年)では明確な違いがあった。約30年ぶりに管理費の増額が可決されたことだった。それも、1.67倍と決して小さな上昇ではない。独自ルールや住みづらさには黙認していた住人たちも、毎月の持ち出しが増えることは良しとしなかったのだ。住民たちの怒りは爆発していた。

 さらに怒りの火に油を注いだのが、「なぜ管理費が上がるのか」という住民の問いに対して、理事会が明確な答えを用意できなかったことだ。

「値上げの理由をきちんと説明して下さい」と住民が声を上げれば、「あなたはダメな区分所有者だ」「規約違反者だ」と理事長が強く𠮟責する。質問者に対して理事長による人格攻撃ともとれる発言も相次ぐ。