「これまで見てきた総会とは全く違う」参加した総会で目撃した異様な光景

 購入して半年が過ぎた頃、マンション内の告知で総会の開催を知る。不動産業界を知る佐藤にとって、総会への参加は区分所有者の当たり前の権利であり、可能な限り出席すべきだと考えていた。初年度から管理費が値上げされる、という事柄にも引っかかりを覚えた。

 佐藤の場合、毎月1万円ほど負担額が増加する計算になる。一家を代表して、総会の行く末を見守るべきだと判断した。

「これまで見てきた総会とは全く違う」

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 それが、佐藤の第一印象だった。仕事柄、他マンションの総会の事情を知っていたが、このマンションでは様相が違っていた。

 反対意見が出ようが、議論が行われようが全く関係ない。

「委任状で過半数が集まっている」

「多数決でいうと、こちらが強い」

 といった具合に、管理組合側の意見だけが押し通されていった。何より佐藤が憤りを感じたのが、理事長の横暴な言動だった。

「何を言おうとも『私たちはこれまでこのスタンスでやってきたんだ』という言動は終始一貫していました。恐怖を感じたのが、自分たちが言っていることが少しも間違っていない、という確固たる態度だったことです。まるで自分たちと住民の間には、力関係が存在するというような自信すら感じました」

 管理費の値上げについてはまともな議論がされることを期待した。ところが、管理費の値上げの議案ではむしろ、より攻撃的に住民への批判が展開されたのだった。

「これだけ人の話を聞かない奴らがいるのか」

 総会の最中、佐藤は思わずそう呟(つぶや)いていた。

管理組合が独裁体制を敷いていた秀和幡ヶ谷レジデンス(写真提供=毎日新聞出版)

「不動産会社が出入り禁止に」管理組合に抱いた疑念

 佐藤のように憤慨する者もいれば、理事会の“暴挙”を静観する者もいた。この日、初めて総会に参加していた手島である。手島も同様に、管理費の値上げが幡ヶ谷に足を運んだ最大の理由だった。

 当時はまだ参宮橋に住んでいたが、将来的には幡ヶ谷に移住することを見越していた。 

 賃借人への説明のためもあるが、オーナーとして管理組合の動向を知る必要もあった。総会の議題は目まぐるしく入れ替わった。開会後早々に、不動産会社が出入り禁止になったという事案に対して説明がなされる。

 ある外部オーナーが、大手の不動産会社を利用して売却しようとしたことに対し、理事会の批判が飛び交っていた。全く知識がなかった手島ですら、管理組合の体質に疑念を抱いた。