日韓台中のベトナム花嫁争奪戦
2022年10月27日午後、ベトナム南部のカントー市内の喫茶店で待っていた私とホアの前にあらわれた結婚エージェントA社の社員は、アン(仮名、25歳)と名乗った。顧客に結婚相手への期待を持たせるためか、彼女自身も美しい外見の女性だ。
「日本人なのに若い!」
私と出会って開口一番に、アンはそう話した。私はこの当時でも40歳なのだが、ホアが理由を尋ねたところ、あながちお世辞で驚いてみせたのではなかったらしい。
「うちのお客さんになるのは、中国・台湾・韓国の人が多いんですよね。彼らは基本的に、(1)貧しい人、(2)高齢者、(3)若くてピチピチした奥さんがほしい中高年のお金持ちのいずれか。いっぽうで日本人男性の場合、ほとんどが(2)で、60歳以上のおじいちゃんが普通です。だから、あなたみたいな若い人を見るのは初めてなんですよ」
A社は日本にも代理店がある。日本国内から申し込んだ場合、ベトナムへの渡航費や滞在費も含めて90~190万円が必要だという。
ただ、ベトナム国内で直接申し込めば、わずか7000万ベトナム・ドン(約41万円。レートは取材当時)で、公的手続きを含めてすべて代行してくれるそうだ。
「日本国内でベトナム人の結婚希望者を探す場合、30歳前後の技能実習生やボドイ(編集部注:逃亡技能実習生)の女性を紹介されがちです。でも、ベトナム国内で探すなら、もっと若くて高卒~短大卒くらいの“高学歴”の女性を紹介できます」
「男性側が負担する費用は約40万円だけ、ということですか?」
「ほかに、気持ちとして女性の家族に45万円くらいのお金を払ってください。他社が登録する女性には、このお金を目当てに国際結婚と離婚を繰り返す人もいますが、ウチにそういう女性はいません」
花嫁が嫁ぐ前に日本語を覚えてほしい場合は、男性側が結婚前に3ヶ月~1年間ほど待つ。その間、学費と生活費を合わせて1000万~1400万ベトナム・ドン(約5.9万~8.2万円)を毎月送金し、現地でトレーニングしてもらうのだ。
かつてカントー市内には、こうした需要に応える「花嫁日本語塾」が複数あったそうだが、コロナ禍で閉じたという。
「でも、あなたの場合、ベトナム人の奥さんがほしければ、こちらの通訳さんに紹介してもらったほうが、しっかりした相手と出会えるんじゃないですか?」
優等生のホアと私が中国語でやりとりする様子を見て、アンが私の正体をいぶかしんだ。当然の疑問だろう。
疑いを晴らすために「彼女の知り合いには若い子やスタイルのいい子がいなくて。おっぱいの大きい子がいいんですよ」と言ってみる。
