成婚した人の写真
「おっぱいの大きい子、いっぱいいますよ」
「若い子はいますか?」
「もちろん。あなた自身も若いから、10代後半から20代前半の花嫁も簡単に見つかるでしょう」
「じゃあ、ものすごく若い子は?」
「16歳や17歳を紹介することも可能ですよ。ただ、ベトナムの法律がありますから、実際に籍を入れるのは18歳以上になってからですが」
アンはあっさり答えた。
ただ、若い美人をほしがるとなれば、他国の男性との熾烈な花嫁争奪戦が待っている。
「今日の午前中も、花嫁を探す中国人男性2人を案内したところです。中国人の求婚者には若い男性も多くて、日本人の倍の費用を払うんです。ついこの間、成婚した人も、ほら、こんな感じで」
スマホに保存した写真を見せてくれた。ベトナムの結婚エージェントの世界に「個人情報保護」という考えはないらしい。
写真に写っていたのは、短髪のがっしりした中国人青年と、やや幼い印象のかわいいベトナム人女性だ。この青年は湖南省出身の34歳のコックだという。彼は結婚相手について、20代の初婚女性のみという条件をつけていたが、男性側も若かったので条件通りの女性が見つかったそうだ。
「現在、中国は母国のゼロコロナ政策の影響で、出入国が非常に大変(取材当時)。それでも奥さんを探して、田舎からベトナムまでやって来るんです」
中国では過去の一人っ子政策の影響から、親世代が妊娠した際に、やがて家を継がせる男児を選択的に生む(=女児を中絶する)傾向が強かった。結果、現代の中国社会では男性が女性より約3490万人も多い(2021年時点)という、極端な男女不均衡が生じている。だが、儒教的な価値観もあって、周囲からの結婚へのプレッシャーは極めて強い。
その結果、農村部を中心に、隣国から花嫁を迎えて子どもを産ませる例が増えた。なかでもベトナム人は、外見や生活習慣が中国人と近いので人気である。オーストラリアの公共ニュース・チャンネル『ABC』の中国語版によると、これまでに約10万人のベトナム人女性が中国に嫁ぎ、定住したとみられるという。
「ただ、中国人との結婚はトラブルも多いんです。ベトナム人女性が国際結婚をする目的は、嫁ぎ先で働いて実家に仕送りするため。ところが、いざ中国に行ってから、夫の地元がベトナムよりも貧しいと知って逃げ出す例がしばしばあります。ある村から中国に10人嫁いだのに、全員が逃げ帰ったこともありました。これに比べると、日本行きは相手がおじいさんであること以外はまだマシで……」
アンは話し続けた。