マンションのエントランスホールにいたのは、血だらけで倒れた裸の男性の横に座り、タバコを吸いながらスマホで電話をかける女性――。SNSで広まった衝撃的な画像でも注目を集めた、新宿歌舞伎町ホスト殺人未遂事件(2019年)。

 なぜ元ガールズバー店長は、推しのホストに刃を向けたのか? 実際に起きた事件や事故を題材とした映画の元ネタを解説する新刊『映画になった恐怖の実話Ⅳ』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)

なぜ21歳女性は推しのホストを刺したのか? 記事では「血だらけの2人」の写真も紹介。写真はイメージ ©getty

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犯行動機は「好きで好きでしょうがなかったから」

 マンションのエントランスホールで、血だらけで倒れた裸の男性の横に座り、タバコを吸いながらスマホで電話をかける女性。2019年5月、SNSに衝撃的な画像が出回った。ガールズバーの元女性店長(当時21歳)が東京・新宿歌舞伎町のホストクラブに勤める男性(同20歳)を刃物で刺し大怪我を負わせた事件。

 その犯行動機は「好きで好きでしょうがなかったから」というものだった。2020年公開の短編映画「そこにいた男」は「岬の兄弟」(2019)や「さがす」(2022)などで知られる片山慎三監督が、世間を震撼させた本事件に着想を得て作った男女の愛憎劇である。

 映画の主人公は、映画の制作スタッフを務める紗希。ある日、彼女は現場で役者の翔にナンパされ恋に落ちる。翔はその気持ちを利用するように彼女を言いくるめ服や車を貢がせる。プライベートなことを一切明かさない翔だったが、紗希は彼に捨てられるのが怖くて、デリヘルで働き貢ぎ続ける。しかし、やがて翔に妻がいることが発覚。気持ちの切れた紗希は包丁で彼の腹部を刺し殺害してしまう。

 登場人物の職業やキャラクターに違いはあれど、惚れた男の気持ちを繋ぎ止めるため金を貢ぐ歪な愛情が憎悪に変わり最終的に凶行に及ぶという構図は、実際の事件も同様である。

 後に事件を起こす女性Yは1988年、中国人の父親と日本人の母親の間に生まれた。2歳のころ母親とともに来日し日本に帰化。東京の下町で育ち、中学・高校時代は可愛いルックスから異性にモテはやされる傍ら、夜遊びを繰り返すように。進学した大学を中退後、学習塾の受付の仕事に就き、2018年10月からは、その塾のオーナーが経営していた新宿歌舞伎町のガールズバーの店長となる。