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吉本興業はいつから、どのようにして”国策企業”にまでなったのか?

速水健朗×おぐらりゅうじ すべてのニュースは賞味期限切れである

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お笑いだけじゃない「多才な人材会社」と変換していく吉本興業

速水 立派な輸出産業になりつつあるんだ。芸人が向いているのはわかったけど、他の事務所はなんでやらないの?

おぐら いま吉本に所属する芸人は、およそ6000人です。この数が47都道府県に分散したらもう、他が入り込む余地はないですよ。いくら吉本が自前の劇場をいくつも持ち、マスメディアとも深いつながりがあるとはいえ、6000人は捌けない。この有り余る人材を活用する意味でも「住みます芸人」は理にかなっている。芸人としての苛烈な競争を勝ち抜かなくても、地方のご当地タレントになれば、そこそこ食えるようになる。もともと芸人としての月収が1万円とかであれば、空き家の掃除やリノベーション、農作物の収穫まで、なんでもやりますよね。当然お祭りやイベントも盛り上げますし、地元のテレビにまで出演できる。

速水 役所なんかより、よっぽどしっかり地方創生に貢献してる。

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おぐら もうひとつ人材の話でいうと、ピースの又吉直樹が芥川賞を受賞したのを筆頭に、吉本は笑い以外の才能も大量に抱えています。

速水 闇営業の主犯である入江の相方、カラテカの矢部太郎は手塚治虫文化賞短編賞を受賞してた。

おぐら 芸人の「多才であること」アピールは、芸人の地位向上ともリンクします。文才や絵の才能はもちろん、高学歴、高い身体能力、プロ並みの料理が作れるなどなど、吉本はあらゆる方面の人材を抱えている。そう考えると、キングコングの西野亮廣やオリエンタルラジオの中田敦彦がオンラインサロンを運営しているのも、一見すると吉本芸人のメインストリームからはずれていると思いきや、実は会社の方向性的には最前線とも言えます。

6000人の所属芸人を活用する「教育」の参画も発表

速水 これまでの“芸人仕事”の枠に収まらないことをいかにやるか、っていう。でも多才な人材を抱えたあと、それはどう活用していくの?  全員が「住みます芸人」になるわけじゃないでしょう。

おぐら そこで吉本が乗り出したのが、教育分野への進出です。今年の4月には、吉本とNTTグループが組んで教育関連のコンテンツを配信するプラットフォームを立ち上げることが発表されました。これにはさっき話に出た官民ファンド「クールジャパン機構」が100億円を出資すると伝えられています。

 

吉本興業が教育に本格進出。NTTと動画配信。大崎会長「吉本は教育の会社になる」
https://www.businessinsider.jp/post-189486

速水 なるほど。いまの吉本なら、国語、算数、理科、社会、体育、美術、どの教科にも教えられる芸人がいてもおかしくない。しかも人気のある先生になりそうだし。

おぐら もちろん、すべての取り組みに対して、吉本が事前に綿密な戦略を立てていたわけではないでしょうが、所属する芸人が増えすぎたことで、どうにか人材を有効活用しようと、地方創生に乗り出したり、これまでの芸人仕事ではない領域へ進出させていったんだと思います。もうひとつ大きな要因として、芸人の売り込みやマネジメントを担う吉本の社員の数が、芸人の数と比べてあまりに少ないせいで、芸人たちが自ら動き出した。テレビのバラエティ番組に出るにも席は限られているし、マネージャーも放任だし、じゃあもう自分でやりたいこと、得意なことを仕掛けていくしかない。たとえば「ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル」のブレイクは、そういった本人主導の流れで起きた現象だと思います。