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甲子園優勝・履正社“ナンバーワンOB”坂本誠志郎の頭の中

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/08/31
note

「未だに坂本のノートを超える選手はいません」

「岡田監督は野球のことはほとんど話さなかった」と坂本は言う。3年間、いや、卒業してからの時間も含めて指揮官からかけられた印象的な言葉は「沢山ある」。私が無理矢理一つ選んでと言うと、しばらく黙ったあとゆっくり言葉を紡いだ。

「人に後ろ指をさされるようなことをするな。ですかね。やましいことがあると堂々としていられない。堂々としていられるように。自分を戒めて日頃の生活をするようにということですね」

 兵庫県の北部に位置する養父市出身の坂本は下宿生活を送っていた。15歳の頃から掃除、洗濯など家事を一人でこなしていたのだが、きっちりとした生活をしていたことを証明する出来事がある。「いつみても坂本君のユニホームはとってもきれいね!」。当時担任だった多田晃コーチが明かしたのは、父兄からの言葉だ。自宅から通うどの選手よりも坂本のユニホームはいつもきれいだった。それだけではない。多田コーチは続けて、野球ノートについても歴代ナンバーワンは坂本だという。「未だに坂本のノートを超える選手はいませんね。あれだけしっかりした考えの選手はなかなか出てきません」。

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そんな坂本は今何を“考えて”いるのか

“考える野球”がはじめからできていたわけではない。中学は軟式の野球部だった坂本は硬式野球との違いに戸惑った。「おまえ、軟式ちゃうぞ!」。指揮官から厳しい言葉で突き放された。しかし、ここにも岡田監督の“うまさ”があった。

「こう言われると、くっそー。悔しいとまず思う。じゃあ、硬式ってどんな野球かわかってやろうと思うんですよね。悔しさを力に変えさせるのがすごくうまいですよね」

 技術的な指導はほとんどしない。どうやったらうまくなるのか、それを考えさせて力にさせるのだ。タイガースを取材していても坂本はすごく考えているように私の目に映る。矢野監督が1軍作戦兼バッテリーコーチを担っていた一昨年、全捕手にチャートを書かせた結果ほぼ完璧に書けていたのが坂本だった。「配球に意図があってちゃんと考えているから書けるんやと思うわ。特に肩が強いわけでもないし、めっちゃ打てるわけでもない。でもいい捕手になる要素を持っているよね坂本は」。

 梅野隆太郎という存在もあり今季の出場はわずか18試合にとどまっている。(8月30日時点)。ベンチで過ごす時間が長くなっているが、試合中でもメモを手にする姿がある。そんな坂本は今何を“考えて”いるのか。「野球がうまくなりたいです。うまくならないと勝てない。うまくなるために何をするか、試合に出たときに結果をだせるか。そんなことを考えています」。

 打席に落ちているどんなに小さなゴミも、すぐにポケットに入れる男だ。きっと他の人には見えないところまで坂本には見えているのだろう。もしかすると日本一の景色も坂本には見えているのかもしれない。頭の中を覗いてみたくなった。

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