初めて投げかけた質問は「ちびまる子ちゃん」だった。13年11月18日、阪神タイガースからドラフト6位指名された岩崎優は故郷・静岡のホテルで仮契約に臨んでいた。日本人なら誰もが愛する名作アニメは、地元の清水市(現静岡市清水区)が舞台設定だ。どう猛で何でも食らいつく「虎番」にとってこれほどおいしい“ネタ”はない。

 取材前に立ち寄った静岡駅のカフェでどんな原稿に仕立てようか1人作戦会議をしても、もう「まるちゃん」が頭から離れない。野球に関する質問も用意しながら“岩崎 ちびまる子とコラボ”……そんな見出しの躍る紙面がグルグルと頭を巡っていた。

「将来的にちびまる子ちゃんに出演するのが究極の目標になるのかな?」。気づけば、囲み取材で真っ先に聞いていた。今振り返れば、強引過ぎる誘導尋問に左腕は「ちびまる子ちゃんと言えば、清水というイメージ。(将来的に)出られたらいいですね」と大人の解答をしてくれた。

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「ちびまる子ちゃん」に出る ©スポーツニッポン

ありふれた意気込みににじんでいた強い気概

 あれから5年。まだ20代だった若手記者は虎番10年目になり、入団前の大学生はチームで中堅組になった。「あの質問ね……。いきなり何を聞くんだこの記者は、と思ったのは確かです」。今でも、あの取材現場について話題になる。初対面の記者からいきなり「ちびまる子ちゃんに出たい?」と聞かれたのだから、困惑するのも当然。ただあの日、岩崎はもう一つの誓いを立てていた。

「1日でも早く1軍で活躍できるようになりたいですね」

 誰でも口にできそうなありふれた意気込みは、立場を思えば強い気概がにじんだ。13年のドラフト組ではチーム内では最も下位指名で、同期入団には1位の岩貞祐太をはじめ、陽川尚将、梅野隆太郎と同世代が名を連ねた。国士舘大時代、練習試合で対戦した横浜商大のエース・岩貞を見て「ああいう投手がプロに行くんだ」と実感した無名のサウスポーは、1年目で開幕ローテーション入りを果たすなど「下克上」という名の有言実行を果たしてきた。 

 そして、今、ブルペンの中枢を担う。守護神・藤川球児、来日1年目のピアース・ジョンソンとともに「勝利の方程式」を形成し7、8回を任される。プロ入り2年間は先発として起用されたが、16年のシーズン終盤から中継ぎに転向。新たな持ち場で潜在能力を一気に開花させ、17年からは2年連続で60試合以上登板と、ポジションを確立した。矢野監督の就任1年目となった今年も、春季キャンプではチーム事情もあり先発再転向にも取り組みながら、開幕後はブルペンの一角に加わった。

現在は「勝利の方程式」を担っている ©時事通信社

岩崎優の人間性、内面を感じられる時

 取材対象者としては、マウンド上だけでなく24時間、ポーカーフェースを貫く「難攻不落」な人物。「はい」「そうですね」「良かったんじゃないですか」……。登板後、虎番に発する言葉はどれもシンプルで素っ気ない。記者泣かせな“ソルティー”な男な一方で、時々、投じる質問に対して「温度」を感じるアンサーが返ってくる時もある。そんな岩崎優の人間性、内面を感じられる時が、聞き手としては、ちょっぴり嬉しくもある。

 今年で言えば、5月上旬にインフルエンザを発症して戦線離脱を余儀なくされた。更に、下半身の故障も併発するという負の連鎖で昇格のアピールどころか、コンスタントに登板を重ねることも困難だった。身心ともに滅入ってしまいそうな当時の状況について聞くと、予想以上の言葉数が返ってきた。

「(インフルに)なったものは仕方ないんで。この期間を無駄にしないように、あの時間があったから、と思えるようにやってきたので。それしかないと思いますよ」。言うは易し行うは難し。窮地にも立ち止まることなく、前へ踏み出し、感情を露わにすることなく、無表情のまま1軍にはい上がってきた。

 ならば、セットアッパーを託されるこの夏、勝敗の行方を左右する立場でどんな心構えでいるのだろうか。優勢、劣勢関係なく、ロングリリーフもこなした昨年との変化、違いを知りたかったが……。