自ら強調した「現状維持」への強い抵抗感と脱却
「じゃあチャリコは鳴尾浜と甲子園で取材する気持ちは変わりますか? 変わらないでしょう。それが答えですよ」。いきなりの“けん制”に不意を突かれたが、分かっていても、口に出すことで理解が深まる言葉があることを教えてもらった。役回りが変わっても、目の前の打者、アウト1個を奪い取る仕事に変わりはない。そこに気負いもなければ、浮つくこともない。さらに、自ら強調したのは「現状維持」への強い抵抗感と脱却だった。
「(中継ぎで)3年目なんで。(ポジション的にも)昨年と同じではダメ。今の状況にも満足はしていないですし。もっと上を目指せるように」。現在は相手が上位打線ならジョンソンを前倒しで7回から起用することも多い。そこに人知れず悔しさを感じる男は、勝ちパターンに昇格して1カ月経たずで現状を打破し「迷わず岩崎」の形へ進化をはかろうとしている。
向上し続けるサウスポーにとってただ一つ、不変なのがアマチュア時代から駆使する下半身の粘りを生かした独特の投球フォーム。プロ入り後も、全くいじることなく腕を振ってきた。「この投げ方でずっとやってきた。それができなくなったら終わりだと思っているので」。28歳にして「引き際」にすら思い至る。なかなか真似できることではない。周辺環境に惑わされず、ブレることのない芯の強さが、背番号67を支えてきた。
アイキャントライ――。甲子園に左腕の信念を代弁する歌声が響き渡る。後半戦から突如として本拠地での登場曲を変更してファンの間でも話題になった。2軍で汗を流していた5月にリリースされた歌手・河野万里奈の「真人間入門」に収録されている1曲。多くを語ることは無くても「2軍にいる時、励みになった曲なので」とだけ言った。岩崎優は、挑み続ける。幼い頃から富士山を目にしてきた男は、今日もこの一瞬に満足することなく、高みを見据えている。
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