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ナインは打席に入ってもベンチを見なくなっていた

 和田や捕手の及川らナインの多くは、佐々木が中学時代に所属したKボールの地域選抜である「オール気仙」のチームメイトだ。Kボールとは、素材はゴムながら硬式球と同じ大きさ、重さのボールだ。岩手では軟式野球部を引退した中学3年生が、高校から扱う硬式球までの準備段階として、Kボールの地域選抜を結成するのだ。Kボールの全国大会に出場した佐々木は、そのチームメイトと甲子園を目指すべく、花巻東や盛岡大付属といった県内強豪私立からの条件の良い勧誘を断り、公立の大船渡に進学した。久慈戦後、佐々木は言った。

「この仲間と、甲子園を目指したかった。自分が試合に出たいとかじゃなく、自分が勝つためにできることをやって、その結果、チームが勝てば良いと考えています。負けたら終わりだという覚悟は常に決めている。(もし出場しないまま敗戦となっても)仲間が必死にプレーしてくれていた。悔いはなかったと思います」

 相変わらず、ベンチから指示の出ない「ノーサイン野球」を大船渡は続けていた。バントや盗塁の判断は選手に一任し、大船渡のナインは打席に入ってもベンチを見向きもしない。久慈戦後、そのことを國保監督に問うと、ややムキになってこう返した。

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「ノーサインのように見えるかも知れませんが、いろんなこともやっています。すべては結果論。負けていたら、動かなかったね、と言われるだけ」

取材に応じる大船渡の国保陽平監督 ©時事通信社

盗塁は「サインはないので自分で決めた」

 しかし、9回に盗塁を決め、チャンスを広げた右翼手の三上陽暉はこう証言した。

「サインはないので、(盗塁は)自分で決めた事。何が最善策か、その場、その場に立っている選手が考えて、戦っています」

 佐々木は「國保監督はプレーしやすい環境を作ってくれる。自分はベストを尽くすだけ」と話した。ベストを尽くせたならば結果はすべて受け入れる。それが佐々木の言った「覚悟」なのだろう。

 4回戦の194球から中2日が空いた7月24日が準決勝で、その試合に勝利すれば連戦となる。

「一冬を越えて、身体も強くなりましたし、ベストコンディションに持って行く方法を学んで、実践しています。去年の夏とは疲れ方が違う。(準決勝・決勝の)連投はできないということはない。頑張りたい」

 大船渡と同じ公立校で、ノーシードで勝ち上がってきた一関工との準決勝――。序盤から援護をもらった佐々木は、脱力したフォームで、球威よりも制球を重視する“省エネ投法”で手玉にとり、5対0で勝利した。

 球数は129球。少ないとはいえない球数だが、試合後の佐々木に疲労は見られなかった。

 当然、決勝のマウンドにも上がると思われた。

※第3回は8/20(火)公開予定