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「思い描いた未来ではない、でも……」 元ヤクルト・鵜久森淳志が語った第二の人生

文春野球コラム クライマックス・シリーズ2019

2019/10/11
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人生に正解はないけれど……

 ここで、改めて尋ねてみる。「うまくいかなくて落ち込んだり、くじけたりすることはなかったのですか?」、と。鵜久森は大きく首を横に振って、即答した。

「くじけることはなかったです。日々の仕事の上で、うまくいく、うまくいかないということがあるのは、野球と一緒ですから。毎日、反省して、修正して、明日に臨む。それは野球とまったく一緒ですからね」

 続いて、「逆に“うまくいったな”とか、“人の役に立ったな”という充実感や達成感を感じたことは?」と尋ねてみると、鵜久森は再び首を横に振った。

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「達成感はまだないです。でも、今年ももう戦力外通告の時期になって、今後のことを考えなければいけない選手が出てきました。こういう人に向けて、自分が何を提案できるか、それが今、問われていると思います……」

 鵜久森は、さらに続ける。

「……だから、今年のトライアウトにも足を運びたいと思っています。“まだ野球を続けたい”という思いを持っている人に対しては悔いのないように最後まで頑張ってほしいです。でも、もしも、“野球以外に何ができるんだろう?”と考えたとしたら、そのときには自分のことを思い出してほしいんです。僕たちがアドバイスできることも何かあるはずだから。その人にとってベストの選択をするためには選択肢は多い方がいい。人生に正解はないのかもしれないけど、悩んでいる人をバックアップするべく少しでも力になりたいんです」

「人生に正解はないのかもしれないけど、悩んでいる人をバックアップするべく少しでも力になりたいんです」 ©文藝春秋

 保険の提案だけではなく、人材を求める企業と新たな仕事を求める選手との橋渡しをする。それも、鵜久森が目指しているもう一つの大切な役割だ。今シーズンも、日本ハムのファーム施設である鎌ヶ谷や、ヤクルトの本拠地である神宮球場に足を運び、かつての仲間たちと積極的な意見交換を行った。

「現役時代は野球に集中する。それはとても大切なことです。でも、その際に外の世界の価値観を知っておくことも大切なのではないか? 自分の現役時代を考えると、“もっと、いろいろな価値観に触れておけばよかった”と思うことがあるんです。多くの選手は、いざ戦力外通告を受けて初めて、“困った、どうしよう?”ってなるけど、もう少し早くから次のステップを考えておくことも大切だと思うんです。いろいろな価値観を知ることが、きっと野球に役立つこともあるはずだから」

 どんな思いで、現役選手が日々の野球に取り組んでいるのか? 引退後のことをどこまで考えているのか? 将来に対してどんな不安を抱いているのか? 自分が現役時代には気づかなかったことを改めて教えられることもある。その一方で、野球だけにフォーカスしている後輩選手に対して自分の仕事について、社会に出てから出会った人について話すことで、新たな価値観を身に付けてほしいという思いもある。

「最初に言ったように、今はまだ思い描いたような未来にはなっていないけれど、何も不安はありません。もっともっといろんなことを学んで、誰かの役に立つことのできる、そんな人間になりたいと思っています」

 手元のビールを一気に飲み干す。仕事終わりのビールは、どうしてこんなに美味いのだろう。鵜久森の笑顔が弾けた。

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