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“北の侍”の召喚 ガッツ小笠原道大がいるだけでファイターズはファイターズになる

文春野球コラム クライマックス・シリーズ2019

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小笠原の背中だけが僕の気持ちをわかってくれていた

 僕はガッツ小笠原というとどうしても忘れられないシーンがある。といっても(あんなに打ったのに)ホームランを打ったシーンではない。笑顔の姿でもない。背中なのだ。2004年のプレーオフ第1ステージ最終戦。まだCSという呼び名がなかった頃のポストシーズンのゲームだ。

 球場は西武ドーム。ファイターズは西武・和田一浩にサヨナラホームランを食らった。シーズン最後にストッパー、横山道哉が投じた球は落ちないフォークだった。ライトスタンド・西武ファンの歓喜が爆発する。1塁ベンチからライオンズの選手が飛び出す。和田がダイヤモンドを一周する。見ればファイターズファンで埋まったレフトスタンドからホームランボールが投げ返された。こんなもんいらねぇ。非情な野球のコントラスト。明と暗。

 僕はレフト際でそれを見ていた。グラウンドに転がるボールを森本稀哲が残念そうにグラブにおさめてから、内野席の少年ファンに放ってやる。そして小走りにベンチへ戻る。センターの守備位置からは新庄剛志が戻ってくる。ファンにせいいっぱい感謝を示しながら駆けてくる。選手らは今シーズンを終えたのだ。西武の歓喜の裏側で、皆、表情を消してベンチへ戻ってくる。

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 ただひとり小笠原道大だけがサードの守備位置を動けずにいた。僕はその背中をずっと見た。背番号2。むこうでは和田が西武ナインの手荒な祝福を受けてもみくちゃになっている。が、小笠原は守備位置を動かない。

 あんな雄弁な背中はなかった。僕はこの男に賭けようと思った。彼の背中だけが僕の気持ちをわかってくれていた。絶対にファイターズは優勝する。あの背中から物語が始まる。小笠原はしばらくそうしてたたずんだ後、サヨナラホームランが消えたレフトの一角を振り返り、ベンチへ下がっていった。

 僕が小笠原コーチに求めるのはああいう背中を持った選手だ。ああいう背中をつくってほしい。カッコつけた選手なんかいらない。本気で悔しがり、本気でチームの勝利を求める「次の小笠原道大」をつくってほしい。それが栗山監督が会見の席上言った「いちばん必要なもの」に違いないのだ。

 ウェルカムバック、ガッツ小笠原道大! 帰ってくるのを待ってた。

ガッツ小笠原、僕らは帰ってくるのを待っていた! ©えのきどいちろう

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