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“北の侍”の召喚 ガッツ小笠原道大がいるだけでファイターズはファイターズになる

文春野球コラム クライマックス・シリーズ2019

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 小笠原道大ヘッド兼打撃コーチの就任会見を見た。14時からユーチューブで会見場がただ映って、ウンともスンともいわない状況だったので、つい油断していた。突然、スーツ姿の人影が見え、栗山監督とガッツ小笠原だった。うおおお、と叫んでしまう。本当にガッツだ。ヒゲ面だ。「北の侍」だ。

「小笠原です。ただいま、でよろしいでしょうか?」

 もう一度、うおおお! この感じは何と表現すればいいか。

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 召喚(しょうかん)だ。

 キャラクターのカードゲームで、強い魔力・霊力のキャラクターを召喚し、勝負に出る感じ。じゃなかったら昔、『料理の鉄人』って番組があったでしょう。鹿賀丈史演じる美食アカデミー主宰が、挑戦者の求めに応じて鉄人を召喚する。鉄人は道場六三郎ら現実の料理人だが、番組冒頭ではセットのなかで静止している銅像、いや、鉄の彫像だ。主宰が呼びかけることで命が吹き込まれる。「よみがえるがいい、アイアンシェフよ!」

 そうやって「北の侍」が14年ぶりに姿を現した。召喚した主はもちろん栗山監督だ。「おかえりなさい」と声をかけ、ファイターズのレジェンドと隣り合って座る。席上、栗山さんは召喚の意図をはっきり口にした。「来年勝たねばいけない状況のなかでいちばん必要なものをチームに戻してくれる。力を合わせてやっていきたい」

ヘッド兼打撃コーチに就任した小笠原道大

ガッツがいるだけでファイターズはファイターズになる

 僕としては「うわうわ本物だ」感である。伝説のヒーローがそっくりそのままよみがえった。いや、もちろん巨人や中日のユニホーム姿は知っているのだ。中日の2軍で指揮するのもウエスタンリーグで目にしている。だから彼のキャリアや実人生は理解している。が、何か14年凍結していて、召喚されたヒーローに思えるのだ。まるで静止していた彫像が動き出したように。

「14年ぶりということで、だいぶチームが変わっていると思うので、また1から、0からのスタートと思って、やっていきたいと思います。また監督から言われた通り、自分が今まで経験してきたこと、勉強してきたことを、何とか北海道に恩返ししたいなという思いで、今日この場に座っております」

「昨日、飛行機から降りてタクシーに乗って、眺めていると、非常に懐かしい思いにひたりながら、このホテルに入ってきました。何かこう、浦島太郎のような、14年ぶりなので、本当に時代の流れも早い。懐かしいものもある。また新しいものもある。不思議な感覚で、昨日から過ごしてきました」

 ね、童話の主人公のようなことを言うでしょ。眠り姫とか三年寝太郎とか、何か人智を超えた存在を思わせる。僕はユーチューブに釘付けだ。やっぱりスターだなぁ。とんでもない存在感だ。ガッツがいるだけでファイターズはファイターズになる。ガッツがいれば眠っていたファイターズは目覚め、ファイターズに戻るんじゃないか。

 そんなことを考えながらジーンと来ていたのだ。小笠原道大の存在感。彼の風貌、たたずまいを見ているだけで僕は「東京ドームの本拠地最終戦」や「札幌ドーム06年プレーオフ第2戦」に引き戻される。感無量だ。こんな日が来るんだなぁ。僕はあれから遠くまで来たように感じていたが、何も変わらない。ガッツ小笠原道大が大好きだ。

 もちろん現実の小笠原道大は野球人として経験を重ねただろう。セ・リーグで多くの人と出会い、研鑽を重ねた。僕は中日の2軍監督として良い評判を聞いている。まぁ今度の「ヘッド兼打撃コーチ」という役職はざっくりしすぎているけど、経験を生かしてくれるだろう。就任会見の質疑応答で出てきた言葉も「クリーンな状態で全選手を見てから、選手個人個人を判断して」「監督としっかり話して、選手個人個人の特徴を教えていただき、しっかり自分の目でも見て」と、まず見ることを強調している。いいコーチは選手を見るのだ。ダメなコーチは選手を見ず、自分の型を押しつける。

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