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令和に再評価されるべき幻の名作『巨神ゴーグ』に、作家・安彦良和の神髄あり

南の島を舞台にした少年とロボットの冒険譚……転じて、異星人と人類との全面戦争に

2019/10/17
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名作『宝島』のロボットアニメ的翻案作

『ガンダム』の安彦良和が原作・監督・レイアウト・キャラクター及びメイン・メカデザイン・作画監督を手懸けた『ゴーグ』は、安彦の『ガンダム』卒業宣言、そして新境地開拓として新鮮に映った。だがそれは決して新しいものではなく、むしろ“王道”だった。

 ベースはロバート・ルイス・スティーヴンスンの古典的冒険名作『宝島』(1883年刊行)。そこに『少年ケニヤ』(’51~’55年)に代表される山川惣治的“戦時少年密林冒険譚”要素がプラスされ、それらの当世風(’80年代的)アレンジである事実に視聴者が気づくのはしばらく経ってから。安彦自身も後年、インタビューで「あの頃はちょうど『ガンダム』が一段落したタイミングで、まったく違うものを作りたかったんです。そのときに思いついたのが、僕自身が子供のときにワクワクした『宝島』を、今のシチュエーションで作るならどうなるか? というコンセプトでした」と答え、当時の視聴者・ファンである我々と想いを一にしていたことが分かる。

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本作終盤の“主役”といっても過言ではない若き支社長ロッド・バルボア。世界的政治・経済界の大フィクサーで祖父のロイ・バルボア(声・藤本譲)の精神的支配下にあったが、その呪縛から逃れて愛に目覚め、人類を救うべく全力を注ぐ姿に心打たれる。池田秀一の声がピッタリで、『我が名はネロ』がもしアニメ化されたらネロの声は池田さんに演じて欲しい……などと勝手に思ってしまう次第。©サンライズ

 だが、物語が進むにつれ『ゴーグ』は別の顔を見せるようになる。先進国首脳への干渉力まで持ったGAILとその軍事部門の暴走等を快く思わない米・CIAとの間に確執が生まれ、さらにレイディ・リンクス(声・高島雅羅)率いるギャング団や島のゲリラ部隊による反乱活動が絡み、事態はついに怒れる異星人と人類との全面戦争にまで発展。

 ここへ来て悠宇がじつは異星人と地球人のハーフの末裔である等衝撃の事実が次々に判明。GAILのオウストラル新支社長、ロッド・バルボア(シャア・アズナブルの池田秀一が熱演!)が元恋人・レイディへの愛に目覚め、異星人との全面戦争を防ぐべく各国首脳に対しミサイル攻撃中止の交渉に奔走――と、各キャラの意外性と濃密な人間ドラマが入り乱れ(そこが安彦作品の魅力でもあるわけだが)、いつの間にか『宝島』的少年冒険譚は姿を消していた。