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「生涯投資家」村上世彰が東大で語った金銭教育──親子でお金の話をすれば日本経済は復活する

「生涯投資家」村上世彰が東大で語った金銭教育──親子でお金の話をすれば日本経済は復活する

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村上世彰の投資のやり方

 私が投資対象を選ぶときに重要視してきたのは、「私が投資することで付加価値を付けることができる会社かどうか」という点です。このなかで企業のIR(投資家向けの広報)に電話したことがある人はいますか? IRに電話すると、その企業の体質がよくわかります。私が投資対象にするのは、IRに欠点のある会社です。

 IRの対応が悪く、株主向けの説明会もやっていない会社に投資家は寄ってこないから当然、株価は低いままです。加えて、株主に外国人が多い会社。外国人は純粋に利益を上げるために株を買っていますから、海外のファンドなどが株主に多い企業は、企業価値に対して株価が割安であることが多いのです。

 私がファンドをやっていた当時、東京スタイルという会社がありました。私が初めてプロキシーファイト(議決権争奪戦)をやって、株主総会で戦った相手です。婦人服メーカーですが、時価総額の1.5倍の現金を持っていた。本業のアパレルの売上は時価総額の30%しかありません。当時の社長は会社の金を証券会社で運用し、見返りに自分個人に新規公開株を割り当ててもらったりしていた。「これはひどい」と私は思って、株主代表訴訟で社長を訴えました。

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 結局、その会社は吸収合併されて、いまは存在していません。このように、その会社に改善の余地がある限り、私はとことんやります。「株主価値を上げてください」と言うと、「じゃあ、設備投資をします」と会社は答えます。「その設備投資によってどのくらいの利益が出ますか。そのことをあなたはコミットできますか。公の場で発言してくれますか」と徹底的に議論します。

 こういう企業が存在するから、この国は悪くなるんだ。そうなると、もう儲けは二の次三の次で、訴訟費用もバンバン使って、「上場企業のあるべき姿」を追求します。だから、私は嫌われるんです(笑)。しかし、「村上ファンド、いつでもおいで」という企業はもう十分、株価が高いんですね。立派な企業は株価が高い。

村上氏の講演に集まった中学・高校生とその父母たち。

 4年前、経産省の私の後輩たちが中心になって、上場企業のための「コーポレートガバナンス・コード」と、投資家に対する「スチュワードシップ・コード」が制定されました。私が従来から主張してきたことが実現されて、涙が出るほど嬉しかった。いままで「村上の野郎め」と思っていた企業も、政府に言われると弱い。しかもそれがOECD(経済協力開発機構)加盟国のスタンダードで、世界基準だと言われると、「それじゃあ……」と重い腰を上げざるを得ないわけです。既得権益の馴れ合いではなく、利益を得るためにきちんと投資する。そんな世の中になりつつあります。