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片町 由似子
2017/04/09

ジャニーズの歌ヘタ代表、舞祭組・横尾渉を進化させた中居正広の力

 年度末の、番組改編期の歌番組を観ながら、ジャニーズアイドルの歌唱は進化しているとしみじみ思った。流行歌は歌い手の上手さよりも、それを歌う必然や説得力のほうがずっと大切であると、今更ながら思い至ったのである。3月30日にTBSで安住紳一郎アナの司会で「CDTV春スペシャル卒業ソング音楽祭」が放送され、「CDTV~」にはジャニーズからKis-My-Ft2(以下キスマイ)の派生ユニット舞祭組(ブサイク)とNEWSが出演。舞祭組といえば、中居正広が司会を担当していた歌番組「UTAGE!」のレギュラーメンバーであり、SMAPの解散がなかったらこの番組も中居が司会をしていたかもしれないと思うと、一抹どころではない寂しさが胸にこみ上げた。

この人は本当にテレビで歌っていいレベルなんだろうか……

 舞祭組は中居がプロデュースを手がけ、ジャニーズで“ブサイク”を売りにした初めてのグループである。ローラースケートを履いてパフォーマンスするという“身体能力”と“スピード感”推しのキスマイの中にあって、キラキラ感のない4人(横尾渉、宮田俊哉、二階堂高嗣、千賀健永)で結成。「UTAGE!」では楽器演奏やハモリ、難易度の高いダンスなど、様々なことにチャレンジするも、大抵ブサイクな結果に終わる、というオチがついた。中でも、“横尾の歌えなさ”は特筆もので、そのあまりの破壊力に中居からは「オレよりヘタ」とイジられ、挙げ句「師匠」という渾名までついた。CHEMISTRYの川畑要とのデュエットで、あまりのひどさに音声が流れなかったこともある。一般視聴者にはもともとさほど歌が上手いイメージを持たれていないジャニーズにあって、ファンでさえ「この人は本当にテレビで歌っていいレベルなんだろうか」と何度も不安になったほどだ。

 昨年までに自虐ネタを盛り込んだシングル3曲をリリース。すべて中居の作詞作曲だったのだが、楽曲の持つパワーは、キスマイのライヴで存分に発揮された。「棚からぼたもち」など、会場とのコール&レスポンスを巧みに盛り込んだ曲が披露されたときの一体感はとにかく鮮烈。ジャニーズという圧倒的なブランド力がありながら、衣装や照明や舞台装置に頼ることなく、一曲のパフォーマンスに全身全霊を捧げる。歌はともかく、中居プロデュースのダンスは振り付けがとても細かくワザも高度だったりもするわけで、ライヴでの彼らの存在意義は、ある意味キスマイ本体の派手さと舞祭組の泥臭さとのギャップにあると言えた。ところが、今年2月にメンバーが10日間の合宿で作詞作曲して生まれたシングル「道しるべ」は、中居への感謝を歌ったバラードで、中居プロデュースにはあった“楽曲のキレ”が全く感じられなかった。中居と舞祭組の絆を知る者からすれば味わい深さはあるものの、生放送の歌番組で一般向けに披露するには退屈な曲のように感じられたし、内輪受けが過ぎるのではないかと老婆心ながら思っていた。

音程はともかく“中居さんに届け!”というパワーはあった

 それが、「CDTV~」で自らの卒業ソングとして実際に彼らが「道しるべ」を歌っているところを観て、考えを改めねばならなくなった。というのも、いい意味でその破壊力に釘付けになったからだ。二階堂も宮田も千賀も、もともと歌が下手なわけではない。ただ、寝転がったりジャンプしたり、わざと歌うことが難しくなるような振り付けになっていて、あれではさすがの三浦大知でも滑らかに歌いきれないかもしれない。ハラハラしながら4人のパフォーマンスを見守りつつも、大サビの横尾の歌唱で“ハラハラ”は吹っ飛んだ。ここまでヘタなのに堂々と人が歌っているのを見るのは、気持ちがいいとさえ思った。横尾は、この日も放送事故ギリギリの音痴っぷりだったのだけれど、音程はともかく、ちゃんと“中居さんに届け!”というパワーのようなものがその歌唱からは溢れていた。ウケるからといって、わざと外しているのではない。彼のそんな突き抜けた才能を発掘した中居自身、歌ヘタをネタにしながら、実際は音感もリズム感もよく(高音が出ない、または上がりきらないということはあったにしても)、バラエティなどでは、わざとめちゃくちゃな音階で歌うことがよくあった。天然の音痴で、でもやる気と度胸があって、歌と芝居以外は案外器用にこなす横尾のアンバランスな感じを、中居は羨ましく思っていたのかもしれない。

©iStock.com

極めれば、欠点さえも武器になる

 中居が養殖音痴だとしたら、横尾は紛うことなき“天然モノ”。かつて山下智久がMステでマイクスタンドを倒し、それでも普通に歌が流れていたことから口パクだったことがバレてしまったハプニングで、後に事務所社長のジャニー喜多川は「ユー、インパクト大だよ!」と喜んだという(これまた天然)。そう、ジャニーズ事務所では“インパクトを与えること”こそが才能である。いくら「上手い!」と感心されても、誰かの二番煎じだったり、インパクトが残せなかったりすれば意味がないのだ。デビューから2006年まで、SMAPのライヴ演出を手がけてきた中居には、そんな“ジャニーズイズム”が染み付いてしまっているのだろう。

 先日の「道しるべ」のパフォーマンスを観て、“歌ヘタ”のインパクトは、確実に中居の時代よりも進化していると感じた。エンタテインメント界では、極めれば、欠点さえも武器になる。横尾の存在は、歌が苦手な子供たちの勇気になるかもしれないし、たとえばカラオケで誰が横尾のパートを歌っても、「本家よりずっと上手い」と感心されること請け合いだ。現役のジャニーズで“歌ヘタナンバーワン”を選ぶなら間違いなく横尾だと思うが、近年の歌番組で、いつまでも語り継がれるインパクトを、多く残しているのも彼なのである。“欠点をデフォルメし、人の記憶に残す”。そんな中居のプロデュース力には、脱帽するばかりだ。

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