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虚淵玄と東山彰良を虜にした「台湾布袋劇」。その強烈な魅力とは

『僕が殺した人と僕を殺した人』刊行記念対談

source : 別冊文藝春秋 電子版14号

genre : エンタメ, 芸能, 読書

『魔法少女まどか☆マギカ』をはじめ人気アニメの脚本を多数手掛ける虚淵玄(ニトロプラス)が台湾の伝統芸能「布袋劇(ほていげき)」に惚れこみ、映像作品として日本に持ち込んだ。一方、台湾をルーツとする東山彰良もこのほど刊行した最新長篇でまさに「布袋劇」をキーアイテムとして描いてみせた。なぜこれほどにそそるのか。常に大胆なモデルチェンジを繰り返し、新しい演出に挑戦し続ける、台湾の極上エンタメのいまに迫る。

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コンビニで毎週5万~6万本売れている「布袋劇」

東山 虚淵さんが台湾布袋劇の最大手「霹靂社(へきれきしゃ)」と組んで制作された映像作品『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』(以下『サンファン』)を見てたまげました。これ本当に僕が知ってる布袋劇? と慄くぐらい進化していたので。

虚淵 布袋劇の発祥は17世紀といわれているそうですが、台湾では昔からテレビでも盛んに放映されていて、いまでも大人気の国民的コンテンツなんですよね。台湾ご出身の東山さんのほうが僕よりずっとお詳しいでしょうけれども(笑)。

東山 いやいや、今日はぜひいろいろ教えて頂きたくて。僕は10歳になる前に日本に移り住んでしまったし、布袋劇は子どもの頃に見ただけで、現在の形になるまでにどんな飛躍があったのか、プロセスを全然知らないんです。いまはDVDがコンビニでも売られているそうですね。

虚淵 そうです。霹靂さんは、1話70~90分の映像を2話分、毎週リリースしてます。お客さんは週刊コミック誌を求めるように買っていく。値段も数百円程度で、若い子たちも気軽に購入しているみたいです。ストーリー展開は大胆だし、演出もド派手で、めちゃくちゃ面白いんですよ。コンビニで毎週1話5万~6万本出ているとか。

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』のヒロイン・丹翡(タンヒ)
凜の策略で丹翡を助けることになった剣客・殤不患(ショウフカン)

東山 それはすごい。いやもう、その面白さは『サンファン』で堪能させていただきました。そもそも僕が知ってた布袋劇は「奉納芝居」で、お正月なんかに廟(びょう)などの前で、神さまに見せるために上演するというものでした。人形の佇まいからしていまとは全然違いましたね。

虚淵 『僕が殺した人と僕を殺した人』を拝読しましたが、まさに、主人公の少年が人形師に代わって布袋劇を奉納するシーンがありましたね。

『僕が殺した人と僕を殺した人』(東山 彰良 著)
アメリカで連続殺人鬼「サックマン」が逮捕された。「わたし」は台湾で過ごした少年時代を思い出す。30年前、わたしはサックマンの親友だった――。直木賞受賞作『流』を経て生まれた、超弩級の青春ミステリー。

東山 でたらめの布袋劇を、13歳の子が即興でやってみせるという。あのとき、主人公ユンの頭にあったのは、日本のマンガ『AKIRA』に影響されて夜な夜なノートに描きつけていた「ネオ東京」ならぬ「ネオ台北」を舞台にしたマンガで、冷星(コールド・スター)という悪のヒーローが兄を殺した仇を討つという筋立てでした。劇台に飛び込んだ彼は傀儡(くぐつ)に手を突っ込んで、高々と頭上に腕を掲げ、人形を操り始める……。ユンはそれからお約束を全部無視して見様見真似で芝居をするんですけど、本当は布袋劇には独自のルールがいっぱいあるんですよね。

虚淵 定番の演出というのがあって、それがいちいち冴えてるんですよ。キャラクターの登場シーンでは必ず「四行詩」で人物紹介を謳いあげるとか。何より節回しが特徴的で、口白師(コウハクシ)と呼ばれる、いわゆる弁士さんが全部のキャラクターをひとりで演じ分けるのも圧巻です。

 そもそも布袋劇はまず弁士による講談があって、それに合わせて人形に芝居を付けるというのが定型です。この弁士の講談というのがまたいい。

東山 台湾語ってそれ自体、すごくファンキーな響きで、僕は台湾語がまったくわからなくて、台湾にいたときはもっぱら中国語で会話していたのですが、それでも布袋劇をやってる場面に出くわしたりすると、うっとり聞き入っていました。セリフの意味はわからないけど、響きだけで気持ちよく陶酔できる。特にキャラクターたちが技を繰り出すときの“見得切り”なんて、痺れるほどかっこいい。キメの場面の作り方が本当にうまい。

夜魔の森に住まう妖人・刑亥(ケイガイ)の呪術シーンはど迫力!

虚淵 まさに、口白師の言い回しそのものが伝統芸能というか、布袋劇の真髄だと思います。口調や声色を変えながら朗々と演じ分ける素晴らしさ。あれをとにかく日本のお客さんにも味わって欲しかったんですが、台湾語がわからないと真価も伝わらず、それがもどかしくて。そういう言葉の壁にずいぶん悩みましたが、思い切って『サンファン』では見せ場を盛り上げる演出として盛り込むことにしました。

 詩を台湾語で謳って、同時に字幕で表示もする。これでノリだけでも伝わるだろうと考えたんです。その代わりあとのキャラクターの発声はすべて吹き替えにさせてもらったんです。アニメのようにひとりのキャラクターにつきひとりの声優さんに付いてもらうというスタイルで。というのも、弁士による講談が台湾布袋劇の「芸」なら、日本が誇る「芸」はやっぱり声優さんの技量じゃないか、と。

東山 なるほど。