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小説は特別なものだし、絶対にいいものでなければならないと思っています――中村文則(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2016/07/31

genre : エンタメ, 読書

note

読者からの質問「健康のために気をつけていることは何ですか」(20代男性)

●自分の中のどろどろとした嫌な気持ちをどういうふうに扱ったらいいのか分からず、毎日が憂鬱です。中村さんはそういう気持ちになりますか、またそれをどう扱っていますか。(20代女性)

中村 人間の中にドロドロした気持ちがあるのは当たり前でなんです。だから憂鬱になる必要はないです。ドストエフスキーの『地下室の手記』を読んだ時に、こんなにドロドロとして憂鬱なものが作品として、芸術として昇華されて残っているんだというのに感動しました。嫌な気持ちは誰でも持っていますから、自分だけすごく悪いと思わないほうがいいです。大丈夫。

●大人になりきれない私は、理想と現実のはざまでフラストレーションがふつふつと溜まっております。いつか意味を感じられる時が来るのでしょうか? 中村さんは若い頃に感じていたフラストレーションを自分に還元できていますか?(20代女性)

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中村 理想と現実のはざまのフラストレーションなら僕も溜まっていますよ。今も。みんなそうじゃないかな。作家になったからいいじゃないかと思われるかもしれないけれど、それはそれで思うところがある。きりがないんですよね。だから抱えながら行くしかない。

 作家になる前は、作家になれば自分の悩みのある部分は解決するとちょっと思っていて。でも必ずしもそうとは言い切れなかったですね。作家になる前も精神的に辛かったですが、その時の辛さとはまた違うタイプの辛さで、芥川賞を獲った後の2005年から2009年の4年間が、僕はものすごく辛かった。獲る前は発展途上の気持ちでいられたけれど、獲った後はいろいろ思うこともあって、もうプロを辞めて、でも小説は書きたいから自分で勝手にWEBに発表しようかって思ったこともありました。でも、いろんな読者さんのことを考えるとプロの作家であったほうがいいだろうと思ったし、僕自身にリアルにそういう行動を起こす勇気もなくて。河出書房新社さんが、当時は売れるかどうかもわからない『掏摸〈スリ〉』をあれだけ広げようと努力してくれた時に、救われました。それから業界の色んな媒体や人も、あの本を広げてくれた。いい本は読まれるべきだという風に。感動したし、あの時のことは一生忘れないです。恩義を感じています。

掏摸(スリ) (河出文庫)

中村 文則(著)

河出書房新社
2013年4月6日 発売

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●フリーターをしていた時のご自分が今の中村文則を見たらなんていうと思いますか?(30代女性)

中村 「めっちゃ羨ましい」と言われて「そうでもねぇんだって」って答えるという感じですね(笑)。

●「この人になりたい!」と思われたことはありますでしょうか。(20代男性)

中村 僕はないんだなあ。「この人みたいになりたい」ならあるかな。姜尚中さんみたいな声になってみたい、とか。あ、眼の下の隈がない人にはなりたい。普通にしていても「元気ないね」って言われない人になりたい。あと、疲れてないのに「疲れてる?」って訊かれない人になりたいです。

●健康のために気をつけていることは何ですか。(20代男性)

中村 散歩する時に背筋を伸ばしてお腹をひっこめる努力をするとか、それくらいです(笑)。

●好きなおにぎりの具はなんですか?(20代女性)

中村 ちょっと高いけど、「ほんのり屋」の天むす。カンヅメする時はだいたいこれを一つは食べます。奮発する価値はありますよ。

小説は特別なものだし、絶対にいいものでなければならないと思っています――中村文則(2)

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