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西上 心太
2017/09/05

初の女性総理が誕生する直前、スキャンダルが浮上する

西上心太が『標的』(真山 仁 著)を読む

『標的』(真山 仁 著)

 厚生労働大臣越村みやびの最終目標は、国の最高権力者だった。二十六歳で初当選して以来、八期を数える四十八歳の女性議員である。ライフワークは社会福祉問題。その美貌に加え、清廉潔白な政治活動によって国民的な人気を誇っていた。現首相の黛から後継者と指名されたこともあり、初の女性総理大臣の座は確実と思われた。だがその直前にスキャンダルが浮上する。

 二〇一一年から国の補助事業として始まったサービス付き高齢者住宅(「サ高住」)に関する諸問題が本書の背景にある。劣悪な業者を淘汰するため、越村は罰則も加えた法案を提出していた。決議は先送りされたが、その際に反対派に越村側から金が渡されたという。しかも越村の政策パートナー楽田恭平が経営する投資会社の元最高財務責任者からの告発だった。

 本書は主に三者の視点で物語が進んでいく。告発を受けて極秘の調査に乗り出す東京地検特捜部の冨永真一。「サ高住」問題特集のため取材を始める暁光新聞の記者神林裕太。そして越村みやびの夫で、彼女の生家である酒造会社の社長を務める越村俊策である。冨永と神林という『売国』と『コラプティオ』の主人公たちの共演という趣向も施されているのだ。

 冨永は捜査を進めるうちにこの告発は「政局」を利するためのものであり、総理引退後も院政を敷こうとする黛の陰謀があることを知る。一方、気乗りしないテーマだったが「サ高住」問題の本質や、この制度で巨利を得ている楽田のうさんくささを知った神林も取材にのめり込んでいく。

 理想の社会福祉を追い求めた結果、「正しき者に、人々はひれ伏し、理想は実現するという錯覚」に陥ってしまった政治家、「目の前に悪が存在するという証拠を掴んだ以上」見逃すわけにはいかない検察官、忖度なしに真実を追究する新聞記者。政界、検察、マスコミの三者三様の思惑が交錯する、読みごたえたっぷりの作品だ。

まやまじん/1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒。新聞記者、フリーライターを経て、2004年『ハゲタカ』でデビュー。近著には『売国』『当確師』『海は見えるか』『バラ色の未来』などがある。

にしがみしんた/1957年東京都生まれ。文芸評論家。日本推理作家協会員であり、数々の推理小説に巻末解説を寄稿している。

標的

真山 仁(著)

文藝春秋
2017年6月29日 発売

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