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解説者が「どちらも持ちたくない」 永瀬拓矢叡王が攻め込み、一分将棋の激戦に

解説者が「どちらも持ちたくない」 永瀬拓矢叡王が攻め込み、一分将棋の激戦に

第5期叡王戦七番勝負第6局・観戦レポート #2

2020/08/09
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ニコ生の評価値は、一気に豊島側に

 続く△8六角を見て、阿部九段はまた「痛い」と言った。ニコニコ生放送の郷田九段も「後手のほうが勝ちやすいですね」と解説している。

ニコニコ生放送に出演する阿部九段

 しかし、△8六角以下▲6八歩△7七歩成に▲8七歩△7八と▲8六歩と進むと、後手が勝つのは容易ではなくなっている。後手は角を取らせる間に寄せ形を作るつもりだったが、▲8六歩の局面では△8八飛と打てない。▲7八銀△同飛成▲6四桂△同歩に▲9六角が、王手竜取りになるからだ。

 

 永瀬が△6九銀と打つのを見て、阿部九段は「△8六角は毒まんじゅうだったか?」とつぶやいた。ちょうど表示されたニコニコ生放送の評価値は、一気に豊島側に振れていた。

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「はあーっ、そういうことか! なるほど、そうでしたか!」

 ▲6五桂(99手目)の局面。△8六角に代わる正着は、もうひとつ遠くから打つ△9五角。豊島が感想戦で指摘したとき、永瀬は信じられないと言いたげに何度もまばたきをした。そして△9五角の意味を悟ると「はあーっ、そういうことか! なるほど、そうでしたか!」と大きく声を挙げた。△9五角に▲9六歩なら△8六角と逃げて、後の▲9六角が打てない仕組みになっている。

 さらに、▲8七歩(103手目)に対しても△7八とではなく、△9五角と引かれてわからなかったと豊島が言った。以下、▲9六歩△7八と▲9五歩に△8八飛と打てば、8七の歩が邪魔になって▲7八銀△同飛成に▲6四桂△同歩▲9六角が竜取りになっていない。

 

「引く! そっかー! なるほど、へーっ、そうかぁー!」

 マスクで口元は見えないが、永瀬の声は大きく弾み、目は笑っている。棋士は本能的に、好手を知るとうれしくなるらしい。「なるほど、そういう手があるのですか」「なるほど」「なるほど」「そうか」「そうかあ」。

 何度も言うものだから、盤側で感想戦を聞いていた阿部九段が笑いだしていた。

 21時過ぎに指された▲4七玉(107手目)からは、豊島玉が上部に逃げてつかまらなくなっている。豊島は▲3四香(115手目)と竜取りに打ち、△3三歩から香車を取らせている間に▲7四桂以下寄せ形を構築した。

107手目、▲4七玉まで(ニコニコ生放送より)