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「菅義偉さん、やっぱりあなたは間違っている」…“左遷”された総務省元局長が実名告発【全文公開】

2020/09/16
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「欠陥だらけの税制だ」の声

 そして12年12月に第二次安倍政権で官房長官に立場を替えた菅が、それを見てもっと寄付を増やそうとした。そのための方策の一つが寄付控除の上限倍増だったのだ。平嶋は言う。

「第二次安倍政権発足当初は消費増税問題に追われ、手を付けられなかったが、2年目の14年に入り、私が税務局長になる前に、『さすがに今年はやれよ』ときつくおっしゃってこられた。このときすでに米、牛肉、カニの3点セット、どれがお得か、なんて調子で高額返礼品が騒がれ、われわれも対策を検討していた。そこへ控除の限度枠を2倍にしろという。そんなことを指示するのは、政権の中でも菅さんだけでした」

 まるで5万円の高級和牛を2000円で買うネット通販のような感覚で一挙に広まったふるさと納税については、霞が関の官僚でなくとも、少しばかり税制をかじった者なら、「欠陥だらけの税制だ」と口をそろえる。それをあと押ししたのが、菅の提案した寄付控除の上限倍増とワンストップ特例の導入である。

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「ふるさとチョイス」や「ふるなび」など各社のHP

 住民税の1割を上限とした従来の控除枠が、15年度に2割に引き上げられた。結果、上限をざっと計算すると、課税所得200万円で5万円、1000万円なら35万円、1500万円だと53万円といった塩梅になる。ワンストップ特例により、確定申告も不要となった。仮に年収2000万円の納税者が100万円寄付すれば、2000円を除く99万8000円の税金が、高額返礼品付きで戻ってくる。

「ある本」を持って直談判

「菅さんには、14年の春先からずっと『高額所得者による返礼品目当てのふるさと納税は問題です。法令上の規制を導入すべきです』と説明してきました。当時総務大臣だった高市(早苗)さんにも断って、そう申し上げてきました。でも菅さんはそれどころか、控除を2倍にしろという。それでこの年の11月になって、これを読めば、さすがの菅さんでもわかってもらえるだろうと、ある本のコピーを持って直談判したんです」

 平嶋の言う「ある本」とは、「100%得をする ふるさと納税生活」(扶桑社刊・金森重樹著)である。

「本には、〈僕の場合は年額600万円までふるさと納税してもいい〉と書いてある。おそらくこの著者は1億円以上の超高額納税者で、ふるさと納税の上限600万円を寄付すればそっくり税金が還付される。そこには〈599万8000円の全国お取り寄せグルメが取り放題「これ、まじで生活できちゃうじゃないか……」〉とまで書いてあるのです。やらなきゃ損と。これを見れば、さすがに菅さんも考えてくれるだろうと思ったわけです」