菅義偉氏が自民党新総裁に選出された。岸田文雄氏89票、石破茂氏68票に対して、377票という圧勝。9月16日からの臨時国会での首班指名選挙を経て、菅氏は第99代内閣総理大臣に就任する。
菅氏が実績としてアピールしたのが、「ふるさと納税制度」の導入だ。総務相時代の2007年に制度の創設を表明。2012年に官房長官に就任してからは控除の限度額を倍増させたが、自治体間の返礼品競争を招くとともに、高所得者ほど節税効果が高まるこの制度には、批判の声も多い。
そんな「ふるさと納税制度」の問題点を指摘し、菅氏に意見した末に“左遷”された総務省自治税務局長(当時)が「週刊文春」に実名告発した記事を、全文公開する。
(出典:「週刊文春」2020年1月2・9日号 文:森功)
◆◆◆
制度開始から11年、5000億円市場に成長した「ふるさと納税」。だが、高額返礼品を巡っては批判噴出、一部自治体と国で訴訟にもなっている。5年前、制度の生みの親に直言した官僚は、その後、干された。彼は言う。「何があったのか、明らかにしておく義務がある」。
◆◆◆
その日の内閣官房長官執務室は、いつにも増して淀んだ空気が流れていた。菅義偉の待つ部屋に、総務省自治税務局長(当時)の平嶋彰英が入る。平嶋のお供で入室した総務省市町村税課長(同)の川窪俊広はもとより、同席した官房長官秘書官の矢野康治(現財務省主税局長)や内閣官房内閣審議官の黒田武一郎(現総務省事務次官)らも、二人の会話に口を挟むことができず、ただ見守っていた。
2014年12月5日のことだ。会議の議題はふるさと納税である。制度の生みの親を自任する菅は、ふるさと納税を広める手段を総務省に命じていた。その一つが、寄付控除の上限の倍増である。ふるさと納税は自己負担の2000円を除き、寄付した分だけ事前に納めた税金がそっくり戻って来る(控除される)制度である。その控除の上限を2倍にしようというのだ。
「寄付控除の拡充に合わせて、(返礼品の)制限を検討しています。ただ、法律に書くことについては、内閣法制局から難しいと反応をもらっています。そこを踏まえ、通知で自粛を要請しているところでございます」
平嶋に対し、語気を強めていく菅
文字どおり苦虫を噛み潰したような表情の菅に、平嶋が恐る恐る切り出した。すると菅が口を開いた。
「(制限は)通知だけでいいんじゃないの? 総務省が通知を出せば、みんな言うことを聞くだろう」
平嶋は反論した。
「そうでないところもあります。根拠は何だ、と聞いてくるようなところも」
ふるさと納税は「納税」といいながら、新たな税が発生するわけではない。住んでいる自治体から別の自治体に税金を移動させる仕組みだ。しかも寄付する側には、漏れなく高額の返礼品がついてくる。納税とは名ばかりで、2000円で各地の高額な返礼品を買うような感覚になるから、自治体間で激しい高額返礼品競争が起きるのは無理もない。
総務省では5年前のこの時からすでに返礼品を問題視し、何らかの制限をすべきだ、と平嶋は主張した。しかし菅には、制限など眼中にない。それよりふるさと納税全体の金額を増やせ、とばかりに控除の上限を2倍にしろという。上限を引き上げれば、当然返礼品競争がエスカレートする。議論は平行線をたどる以外にない。平嶋に対し、菅は語気を強めていく。
「これだけ(ふるさと納税のムードが)盛り上がっている中で、(冷)水をかけるようなのは駄目だ。1万5000円でメロン1個の夕張市のような成功事例も出てきているじゃないか」
高額返礼品問題について、平嶋は菅の顔を立てながら、なおもこう指摘した。
「(寄付金に対する返礼品の価値は)知事会などでも、2~3割ならよいという感じでしょうか。夕張がちょうどそのぐらいです。ただ、そういう表示をしても、モノで(寄付を)釣るようなものですから、我々としましては問題意識を持っております」