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コンビニ店員として顔を売り、村長に…地方の“クレイジー”な選挙はなぜ今の日本にリンクするのか

『地方選』著者・常井健一インタビュー #2

2020/10/02
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河井克行・案里事件で見た、地方と中央の関係

――コンビニの店員と客の関係になることで、地域の人と目線を合わせにいっているかのようでした。それでいうと、中央の政治家は地方と目線をあわせるのを止めたかのように思えます。 

常井 国会議員のあいだでは地方を自分のために利用する、あるいは都合のいいときだけ「地方の声」という言葉がつかわれます。今回の自民党総裁選でも各候補者が地方の声、地方の声としきりにいっていたけれども、具体策はなにも出てこなかったですよね。 

 むかしはもっと「地方の声」が強かった。特に中選挙区制の時代は地元の有力者をきちんと押さえていないと、自民党の現職であっても選挙に勝てなかったからです。いまの小選挙区制は無党派層を取ればいいので、中央の政治家は町や村の話を聞かなくてもいい時代になってしまいました。 

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――町や村の議員と地元の国会議員の関係も変わったのでしょうか? 

常井 最近、私は毎日のように東京地裁に通っていて、今日もそこからこのインタビュー会場に来ました。

 河井克行元法相と案里参院議員による大規模買収事件の刑事裁判を傍聴しているのですが、河井夫妻からお金を受け取った広島県内の首長や地方議員が証人席に座った際に口にする言葉を耳にしながら、なんだか、隔世の感を覚えています。自民党の国会議員と地方政治家の間にあった緊張関係は変わり果ててしまった、と。 

 たとえば、克行氏から20万円をもらった町会議長は、「地元選出の国会議員は町の生き死にを握っている存在で、議長としては克行氏の機嫌を損なわずにおつきあいをする使命があった。金を返して克行氏の機嫌を損ねたら、町の事業が遅れる事態にもなりかねず、町のためにならないと思い、なかなか判断がつかなかった」と言う。 

河井克行元法相 ©文藝春秋

 地方議員とはいえ、「一国一城の主」という自負がありますから、かつてならそこまで国会議員のご機嫌取りをして、卑屈な気持ちになることはなかったと思います。 

 それから、県議会や市町村議会の議員、あるいは首長から国会議員になるルートがありました。克行氏のような面倒な議員に頼らなくても、地方の気心が知れている別の国会議員が存在して、地元からの陳情を虚心坦懐に受け入れ、地方の声は国政に反映されやすかった。

 ところがいまは、地方でも東京生まれ、東京育ちの世襲議員が増えて、地方議会の政治家が国会議員にあがるための選挙区が空いていないんです。 

――こうした風潮の中ですが、市議会議員出身の菅義偉が首相になりました。 

常井 菅さんにかぎらず、今度の自民党の党執行部には地方議員の経験者たちが顔をそろえました。最近よくいわれる「土の香り」みたいなものを自民党が取り戻さないと、地方の支持組織が弱り始めていて、自民党政治そのものがまわらなくなってきている証です。