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コンビニ店員として顔を売り、村長に…地方の“クレイジー”な選挙はなぜ今の日本にリンクするのか

『地方選』著者・常井健一インタビュー #2

2020/10/02
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「平成の大合併」が過疎化を進めたというデータ

――たしかに国のいいなりになっていては、混乱や危機に見舞われてしまいます。 

常井 かつて「平成の大合併」と称して、地方自治体の合併が推し進められ、市町村の数はほぼ半減しました。合併前の人口が4000人未満の旧町村の地域は、合併しなかった近隣の町村に比べ、高齢化も人口減も進んだというデータがあります。

 合併によって身近なところから役所などがなくなり、公務員は減り、商店は潰れ、暮らしにくい地域になっていったからです。国の目論見とは反対に、合併は過疎化を進めたのでした。 

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 小泉純一郎政権以降、改革を叫ぶ政治家が中央ではもてはやされているけれども、その改革を無防備に、無批判に受け入れてしまうと町や村が疲弊していってしまうという現実があるわけです。 

――『地方選』に出てくる町や村は「平成の大合併」に抗い、昔ながらの小さな地方自治体ですね。 

常井「改革幻想」という言葉を本ではあえて使いましたが、「平成の大合併」は国が上から押し付ける、いわば抗生物質で地方の悪いところを治すという発想です。しかし抗生物質なんか使わなくても、町や村には自己蘇生や自然治癒するチカラがあるんだということに光を当てたかったんです。 

「地方自治は民主主義の学校」という有名な言葉も本文中に出てきますが、「すごい人」や「すごい政策」に頼らなくても、自分の地域の政治に参加するだけで、それなりの社会を変えていく知恵が醸成され、共通の課題を解決していける力を養うことができる。「民主主義の学校」の中でも、地方選は特に重要な「授業」です。 

媛県松野町町長選で投票する町民(常井健一氏提供)

――無風王国で選挙が行われたり、世代交代が行われたりするのはまさに「自己蘇生」ですね。 

常井 本には「35歳以下で就任した現職の若手町村長」をまとめた表を入れています。そこには20代で就任した人もいれば、女性もいます。田舎の政治では、若さや女性であることが参入障壁になるのですが、それをぶち破って当選している例はあるんです。

 しかしこの表もよくみると全員が町長。村長はゼロです。じつは、現職の女性町長は全国に8人存在しますが、女性村長となるとひとりもいないのが現実です。 

 今回の取材で気づいたことですが、どこの現職の町村長も、街頭遊説のときには奥さんが必ず隣に立っているんです。国会議員の選挙だとそこまででもない。しかし、地方選の世界では「妻は夫の隣に立つものだ」というのが、2020年になった現在でも全国標準の価値観なんだなとおもいました。