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「放射能が怖くてヤクザがやってられっかっての!」 1Fの水素爆発に直面したヤクザが取った行動とは

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#3

2020/10/11

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 読書

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日当50万円と豪語

 5日間ほどあちこち回っても、噂話以上の証言は見つからなかった。ゴールデンウイーク後半、ようやく共同通信がスクープできたのは、作業を終えた労働者が大阪に戻り、社民党系のNPOを通じて相談したためである。

 確かに募集要項には宮城県女川町(おながわちょう)での作業と書いてあった。勤務地を偽ったのだから違法行為に違いない。が、その後、当人は現地で賃上げ交渉を行い、1万2000円の日当は2倍になった。とりあえず納得したと解釈すれば、極端に悪質な違法行為には当たらない。厚労省がガタガタ騒いでいるのはマスコミの目を逸(そ)らすためだろう。本来、問題にすべきは4日目になってようやく線量計を渡されたことなのだ。

 ただ、当事者がノートの切れ端にメモした測定値を見る限り、そう問題のある数値ではないという。共同通信がその後配信したニュース(5月13日)には当事者の談話が載っている。

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「精神的ストレスで心臓がパクパクする感じがした。長生きなどいろんなことを諦めた」

 精神的ストレスには個人差があるのでなんとも言い難い。

写真はイメージです ©iStock.com

 一泊2400円の定宿に荷物を置き、通称「センター」と呼ばれる『あいりん労働公共職業安定所』に向かった。目的は事故を起こした1Fでの求人票を確認すること、センターの前で労働者を集める手配師に直接取材するためである。求人票はあっけなく見つかった。手配師は20人に直撃してすべて取材拒否だった。

 なぜ手配師にコンタクトを取ろうとしたのか?

 日雇い労働者を集める手配師の多くはヤミ業者で、バックには暴力団が寄生している。募集会社の登記簿をあげたところで無意味だ。福岡県から始まった暴力団排除運動のおかげで、警察さえフロント企業の実態を摑めない。役員として登記簿に名前を載せている間抜けな暴力団員などいない。

 これまでのパイプを駆使してあちこち取材した。暴力団の多くが作業員確保に乗り出している事実は確認できたが、やはり手配師の談話はとれなかった。

「そんな取材は無駄や。他のヤクザがなんのシノギをしとるんか知らんし、こっちも教えんのやで。よしんばその噂が本当だったとしようや。だからなんや、いう話やないか。国が作業員をよう集めへんのやろ。わしらがやってなにが悪い」

 とある山口組系幹部はそう胸を張り、彼の募集していた作業員の待遇を教えてくれた。日当8万円。作業は電柱の除去、および設置だという。もしこの幹部を通して作業に従事した場合、一日あたり5000円がこの幹部の取り分になる。10人紹介し、それぞれが10日働けば、それだけで50万円の儲けだ。きわめて暴力団らしいシノギと言っていい。