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高橋幸宏・井上鑑ら名うてのミュージシャンとの“密な”レコーディング「音響ハウス」の日々

映画『音響ハウス Melody-Go-Round』ギタリスト佐橋佳幸インタビュー#1

2020/11/13
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 要するに、ぼくが仕事を始めた頃は当たり前だったんですけど、当時レコーディングスタジオっていうのは、レコード会社が持っているものだったわけで。ここはインディペンデントなスタジオの走りというか。今でも稼働しているところとしては本当に珍しいですよね。音響ハウスは老舗のスタジオですから。

人が集まって密になるレコーディングは、コロナ以前の世界

――大きいスタジオは、今どんどんなくなっていっているんですよね?

佐橋 もう音楽の作り方自体がこういうもの(iPhone)で作れる時代になってるんで……。スタジオはまたガンガン潰れて行ってますね、このコロナ禍でね。あとはビクタースタジオとか、いくつか残っていますけれど、やっぱり老舗って考えると、ここにかなうところはないんじゃないですか。

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――音楽業界の危機が迫っている?

佐橋 だって(コロナの)あのガイドラインじゃ、コンサートもできないでしょ。コンサートできないということは、CDを作ってもプロモーションするということも普通にできない。web上でやるとか、そういうことしかできない状況です。レコーディング自体、人が集まって密になるっていうことで、自粛の方向でした。

 今、ちょっとずつ戻ってきていますけど……例えば、音響ハウスはCMとか映画音楽の仕事が多いスタジオです。そういう仕事って大きな編成で「せーの」で画に合わせて録っていくものだけど、今はそれが“密”になる。で、この前聞いた話だと、まずリズムセクションだけ呼んで全部録って、次にこういう人呼んでって、バラバラで録る方法で再開しつつあるという。

――音響ハウスでも?

佐橋 そうだと思いますよ。この前、井上鑑さんに聞いたんですが「ストリングスをこういう編成でお願いします」って言ったら「すみません、その人数が一度に集まるのは密になって危険なので、バラバラに録っていいですか?」って言われて「何言ってるんだろうと思ったけど、しょうがないからそうやった」って。

映画には、忌野清志郎と坂本龍一がコラボした「い・け・な・いルージュマジック」制作秘話も収録 ©2019 株式会社 音響ハウス

――じゃあこの映画の世界は、コロナ前のものですね。

佐橋 ほんとですよ。言われてみればそうだ。密ですもんね。これは絶対、今は無理ですね。