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「これからは休みはない。月月火水木金金だ」 福島1F“百機タンク”設置作業は「灼熱地獄」

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』より#15

2020/11/22

source : 文春文庫

genre : ライフ, 社会, 読書, ライフスタイル

note

さらに過酷さが増す設置作業

 百機タンクの設置は、サリー以上に過酷になると予想されていた。4号機の傍にある丘の上が現場で、そこは通称ピラミッドと呼ばれている。一応除染作業を行い、表面の土を撤去されていたが、地中に埋め込まれたタンクの上に鉄板が敷かれ、日差しを遮るものがないため、フライパンの上で作業するに等しい。これまでのんびりしていたプラントメーカーも、さすがに百機タンクに関しては慎重で、ようやく現場にクールベストが配布された。私が持ち込んでいたアイスノンを装着するタイプではなく、特別な金属を縫い込んだ高価な商品だ。

熱中症対策に着用していたクールベスト ©鈴木智彦

 この金属は通常の体温を超えた段階で、ようやく冷却効果を発揮する。そのためはっきりとした涼しさは感じられず、多量の金属が使われているためかなり重い。日立の現場ではすべての作業員がこのベストを着用するよう指導されていたらしい。日立の現場からやってきた熟練工は「あんなもん少しも涼しくない。ただ重いだけだ。意味ない」と批判し、実際、我が班でベストを着用していたのは、私だけだ。そのほか、電動ファン付きのジャケットも配られた。現場には仮設テントをはじめ、応急処置のできる特別なバスが配備され、監督たちは瞬間冷却剤や飲料水が入ったバッグを持ち歩くと説明された。作業中に水を飲むことは絶対のタブーだ。が、そのタブーを反故(ほご)にしなければならないほど、百機タンクの設置作業は過酷なのだ。

ラドン効果で肩こりが……

 評判の悪いクールベストは、実際に着てみるとそれなりの効果があった。熟練工とは違い、ひたすら動くことが仕事の私は、運動量が多い。クールベストがなかったら倒れていたかもしれないと思う。実際、作業後体がだるく、Jヴィレッジにある医療センターに出かけたことがある。

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「どんな些細なことでも、体の調子が悪ければ遠慮無くここに行って下さい。お金はかかりません。すべて無料です」

 メーカーからそう言われていたが、医療センターは閑散としていた。理由はすぐに分かった。自家用車でJヴィレッジに通ってくる地元作業員ならいいが、旅館に寝泊まりしている作業員は、診察が終わったあと、自力で旅館に戻らねばならない。タクシーを使うと、いわき湯本まで1万5000円ほどかかる。歩けないほど具合が悪いならともかく、少々気分が優れない程度なら、バスで旅館に戻った後、湯本の病院に行くほうが遥かに安い。診察後の移動手段が確保されていない状況では、わざわざここを利用する人間は少ないだろう。

 東電お抱えの医師はろくな診察をしてくれなかった。しかし他の医療スタッフは非常に献身的で、その落差が異様だった。ここで診察を受ける際は、上会社と住所・氏名を記入しなければならない。問診ではどうしても会社批判になりがちのため、ここで診察を受けたことは報告されないと説明された。不思議に思っていたことも質問した。1Fで働くようになってから、慢性の肩こりと鼻づまりがなくなったのだ。