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「バイデン大統領誕生で、日本にどんな影響が?」経済の今後について冨山和彦氏が答える!

2020/11/13
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 国家間の分裂についても、中国の台頭と技術競争が激化した構造は、すでに何年も前から進行してきたものであって、トランプが作り出したものではない。

 つまり、この分断はトランプひとりが生み出したわけではないから、バイデンになっても状況は変わりようがないのだ。よって、この分断の構造が続いている以上、新政権が打つべき政策も、トランプだろうとバイデンだろうと大差はない。さじ加減や表現に違いがあるだけだ。自ずと日本への影響も限定的だろう。

©文藝春秋

どうすれば経済成長するのか?

 IT業界に代表される知的集約型のイノベーションには、一部のインテリだけを豊かにするメカニズムがある。人口比でいえば数パーセント。典型的なタイプは、宗教的な傾倒度合いは低く、LGBTなどにも理解があるリベラルな考え方の持ち主だ。その数パーセントに巨万の富をもたらすメカニズムが働いているのがいまのアメリカだ。

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 ゼネラル・エレクトリック(GE)やゼネラル・モーターズ(GM)の全盛期だった1970年代は、大企業が多くの雇用を生み出し、従業員の賃金水準は高くて豊かだった。しかし、中国をはじめとした新興国が発展したいま、あの時代のアメリカには戻れない。

 一方で、数パーセントの億万長者が稼ぎまくったところで、国全体の経済成長にはつながらない。1人のエリートが豊かになり、1億円の高級車を10台所有していても同時に乗ることはできないからだ。

(写真はイメージ)©iStock.com

 アメリカの問題は少なからず先進国に共通しているが、現代の経済成長は、一般国民の消費行動が規定している。人口が多い中産階級が豊かになればGDPも伸びるのだ。

「儲けている奴の金を奪って貧しい人々に配る」は無理

 このような世の中を前にすると、イデオロギー的な「儲けている奴の金を奪って貧しい人々に配る」という発想が生まれるかも知れない。

 しかしそれでは、お金持ちはみんな逃げ出してしまう。足抜けさせまいと頑張れば、自由抑圧型の強権国家、警察国家になってかえってコストが増大する。共産主義が世界同時革命をめざしたのは、キャピタルフライトの逃げ場をなくすためだったと私は理解している。人類が100年以上かけて実験した結果として、それは無理だったのだ。

 だからヨーロッパの一部は、税金を広く厚くとって、広く厚く支給する高負担・高給付という福祉国家を選択した。お金持ちだけから税をとって、貧しい人たちに分け与えるのはイデオロギーとして美しいものの、現実にワークした試しはない。私も所得再分配の解は、北欧モデルぐらいしかないだろうと考えている。