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「負けた対局の悪夢が…」なぜ東大将棋部にとって団体戦「王座戦」の優勝が悲願なのか

「負けた対局の悪夢が…」なぜ東大将棋部にとって団体戦「王座戦」の優勝が悲願なのか

東大将棋部物語 #1

2020/12/22
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早稲田に勝って王座戦優勝が悲願

 2019年、東大は関東第1代表として王座戦に出場したが、第2代表だった早稲田が優勝して、東大は準優勝だった。昨年の東大将棋部主将で、1年生の時には朝日杯で藤井聡太四段(当時)と対戦して有名になった藤岡隼太さんは、「早稲田に勝ちたかったけれど、終わってから『昨年の王座戦は第1代表で最終日の当たりがきつかったので、むしろ第2代表のほうが戦いやすい』と言ったメンバーもいました」。早稲田に勝って王座戦優勝が東大将棋部の悲願だ。

惜しくも準優勝に終わった2019年の王座戦終了後の集合写真(東大将棋部Twitterより)

 2019年の年末から年始にかけて、藤岡さんは何度も悪夢にうなされた。早稲田戦で負けた自分の対局が夢に出てくるのだ。久しぶりに愛媛の実家に帰ってきたというのに眠れない。自分が勝てれば良かったのに。強いメンバーがそろっていたのに。自分の負けが団体戦の負けにつながった時、苦い思いは消えない。昨年の王座戦は12月26日から28日の3日間にわたって行われ、早稲田大学との対戦で藤岡さんは敗れた。投了して天を仰いで涙を流す藤岡さんのアップは、NHK将棋フォーカスの大学将棋特集で放送された。

 この年、秋まで大学将棋界は“東大の年”だった。関東地区の団体戦リーグでは春秋とも早稲田大学を抑えて優勝、9月には5人制の団体戦全国大会・富士通杯で優勝。個人戦でも1年生だった天野倉さんが、6月の学生名人戦と王座戦の前日に行われた学生王将戦(十傑戦)で優勝し、学生二冠に輝いた。

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天野倉さんは2019年の学生王将戦で優勝した(東大将棋部Twitterより)

勝敗を分かつオーダーの読み

 王座戦に出られるのは、北海道、東北、北信越、中部、中四国、九州地区から各1、関東と関西から各2の10大学。昨年は関東の東京大学と早稲田大学、関西の立命館大学と京都大学の上位争いになった。10校総当たりリーグ9回戦を「持ち時間40分切れたら60秒」というアマにしては長い持ち時間で1日3回戦。チームの勝ち数で順位を競うが、同じ場合、個人勝ち数の合計が多いほうが上位となる。

 大会3日目に行われた7回戦、東大は早稲田と対戦。6回戦まで6戦全勝同士、ここで勝てば大きく優勝に近づく。東大と早稲田が3人ずつ勝ち、残り1局は千日手2回で引き分け、チームも引き分けとなった。アマ大会では千日手を指し直す時間はないから、引き分けと決めているケースもある。残る8、9回戦は下位の大学との対戦だった早稲田に対し、東大の相手は立命館大と京都大。チームが勝てたとしても、個人の勝ち数で早稲田に及ばない可能性が高い。動揺する東大メンバー。7人全員勝てば優勝の目もあった次の立命館戦は、3-4で負けてしまう。

「あれで優勝の目が完全に消えてしまいました。立命館戦では7人をどう出してくるかというオーダーの読みも大きく外してしまい、主将だった自分のせい」(藤岡さん)

 一方の早稲田大学は、8回戦、9回戦とも7人全員が勝ってきっちり優勝を決めた。