コロナ禍で大学生活は一変、大会は次々に中止された。目標を失う中、東大将棋部部長の天野倉優臣さんは朝日杯将棋オープン戦でプロに3勝する。天野倉さんの戦いと、ネット中心になった将棋部の活動、そして大会の再開を追った。(全6回の5回目、最終回へ続く)

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優勝できなかった王座戦「自分が勝っていれば……」

 2020年1月2日、伊藤蓮矢さんは伊勢市の実家でパソコンに向かい、東大将棋部主将就任挨拶を部のホームページ上の掲示板に書いた。毎年の恒例だ。年末の王座戦を終え、伊藤さんは実家に帰っていた。新年を迎えても、王座戦で優勝できなかったのは悔しくて仕方ない。

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2019年王座戦での伊藤蓮矢さん(東大将棋部Twitterより)

 早稲田戦ではオーダーは読み通りだった。早稲田はエースも強く、層も厚い。層が薄めの大学なら、相手のエースにこちらのエースは当てず、確実に勝ちに行く戦略もあるけれど、早稲田相手にはこちらのエースと向こうのエースを当てにいく真っ向勝負で臨んだ。伊藤さん、天野倉さんは早稲田のエースと当たって1-1、他で3-2で勝つという計算だった。天野倉さんは勝ったので、エース対決は1-1の計算どおりだったけれど、勝てると思ったところで負けも出たし、予想外の引き分けも出てしまった。

「優勝できると思っていたのですが、早稲田大学が予想していたより強かったです。僕の対局相手もめちゃめちゃ強いのですが、だからといって負けても仕方ないとは思えませんでした。自分が勝っていればという思いは残っています」

 1月3日、元日に比べれば少し空き始めた地元の伊勢神宮に初詣に行き、今年こそは王座戦で優勝できるように祈った。

コロナで「この世の終わりみたいな感じ」

 伊藤主将のもと、東大将棋部は昨年以上の活躍の1年になる予定だった。しかし、予想もしなかった事態が襲う。学年末の試験が終わる2月初めごろから日本でも流行しはじめた新型コロナウイルス感染症はその患者数を増やす。

 どこの大学も、学生たちの課外活動を制限し、東大駒場キャンパスの学生会館にある部室も2月末から使用禁止。それまで、部室には駒場で学ぶ1、2年生中心に部員が毎日のように集まり、それぞれ練習将棋をしたり研究をしたりしていた。「麻雀やゲームはしないです。みんな自分から好きで将棋をしていました」(天野倉優臣さん)。その場所が使えなくなった。

伊藤蓮矢さん

 入学式もなくなり、授業はオンライン化が決定。そして4月に緊急事態宣言が出た。

「この世の終わりみたいな感じで、もう今年の大会は全部ないだろうと思いました。主将になったのに出番がないというか、不遇だなと思って悲しかったです」(伊藤さん)