大学将棋の華は団体戦だ。そこには、オーダーをめぐる戦略があり、団体戦ならではのプレッシャーと喜びがある。その団体戦の独特なルールと情報戦についてお話ししよう。(全6回の4回目、#5へ続く)
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王座戦に懸ける思いの深さ
藤岡隼太さんが1年生だった2017年、東大は19年ぶりに王座戦出場を逃した。いつも通り打ち上げに行ったけれど、誰も話さず悲痛な雰囲気だ。富士通杯に行けなかったことはその年を含め何度かあった。でも王座戦はずっと行っていたのに――。
藤岡さんは先輩たちの王座戦に懸ける思いの深さを知った。「次は関東で勝って絶対に王座戦に行こう」。そう誓った藤岡さんは「その頃から、団体戦のとりこになっていました」。
2018年4月に藤岡さんが2年生になると、伊藤蓮矢さんを筆頭に、高校の全国大会で活躍した1年生が多く入部した。全国大会で活躍する将棋部の強い高校には、麻布や灘、開成など有名進学校も多い。そのような進学校の将棋部は、東大将棋部の戦力供給源になっている。この年は、麻布高校が高校団体戦で全国優勝したときのメンバーも入学した。
「春の関東の団体戦リーグでは、1年生を3人メンバーに入れました。その分メンバーから外れた先輩もいたのですが、自分たちも負けずに頑張らなければと競争できて、部全体のレベルが上がったように思います」(藤岡さん)
新戦力を得て挑んだ、同年9月の富士通杯
新戦力が加入した東大将棋部は、2018年9月の富士通杯で優勝争いをする。富士通杯も王座戦同様に全国の地区代表10チームによる総当たりの団体戦だ。2017年は出場できなかったことを考えると大きな飛躍だった。富士通杯は5人制のため、登録メンバーは8人。半数の4人が1年生だった。
エースとして9局すべてに出た藤岡さんだが、勝負どころの立命館大学戦で敗れ、チームも2-3で負けてしまう。それでも優勝候補だった早稲田大学には勝っていたから、チーム全勝の大学はない。個人勝ち数の合計で上回れば優勝の可能性はあった。しかし、次の北海道大学戦でも藤岡さんは敗れてしまう。チームは勝ったものの、この敗北が大きく響く。あと1人分勝っていれば優勝だったところを、東大は早稲田大学に続いて準優勝だった。
打ち上げを終えた帰り道、藤岡さんは駅のホームでボロボロと涙を流す。奨励会で負けた時の辛さとは違う。自分がどちらか勝っていれば優勝だったのに、部のみんなに申し訳ない。ブランクを経てまた大学で将棋を始めた頃は、プレッシャーはなかった。それが、学生名人戦優勝のような自分でもびっくりする結果につながった。でも、気が付いたら、チームのために勝たなくてはいけないという重圧の中で指すようになった。重圧を自分でコントロールし、伸び伸び指したほうが勝てるのだけれど、なかなかできない。