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データ集めはみんなで行う

 団体戦で必要なのは、メンバーの力だけではない。戦型チェックといって、他大学の選手の将棋を見て、どんな戦型で戦っていたかをメモする仕事もある。王座戦は、10大学の総当たり戦で、毎回5試合×7人で35局を一斉に行う。14人のうち出られなかった7人だけでなく、メンバーに入らなかった10人以上が、手分けして戦型チェックや、次に当たる大学の様子を観察している。主将が対局している間にも、オーダー決定のためのデータ集めはみんなで行うのだ。まさに総力戦。

 東京から王座戦に参加するには、三重県四日市市まで行く交通費も宿泊費もかかる。クリスマス~年末という時期に、自分が出るわけでもない対局を熱心にサポートする部員がたくさんいて、この戦いは成り立っている。昨年は東大将棋部から30人以上が四日市に行った。王座戦で上位争いをする大学はどこもそうだから、対局者の周りは人垣ができている。

 もちろん、事前のデータ集めも大事だ。これまでに、いろいろな大会で他の大学の選手と指した棋譜の多くが東大将棋部のデータベースに保存されている。各自、反省や、攻略ポイント、ソフト解析をしての結果、他の部員が棋譜を見ての「こう指せば良かったのでは」も追記することができる。検索をかけることもできるし、スマホからでも見られる。

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「『○○大学戦では、××さんに当てるオーダーを考えるから、棋譜を見て準備しておいて』と前もって言っておくこともあります。また特定の戦法しか指さない人もいるので、その人に勝つための研究を何人かですることもあります」(藤岡さん)

「他大学の新入生など情報が少ない場合は、部内LINEで『△△君と指したことある人いる?』と質問を投げます。強い子なら、誰かがどこかの大会で指したことがある。どれくらい強いか、得意戦法は何かなどたいてい答えが返ってきます」(伊藤さん)

「大学の大会以外でも、他の大学の選手を見かけたら、どんな将棋か観察して報告します。自分も見られるわけですが、だからって大会に出ないとは考えないですよ」(天野倉さん)

 伊藤さんは、別のサークルにも入っていたけれど「オーダーとか戦略とか思っていたより大学将棋が面白くて、自然と将棋部中心になりました」と言う。

対局中も常に仲間のことを思う

 それぞれ対局しているとき、先に仲間が勝ったと分かればプレッシャーが減り、少し楽に戦える。隣の対局の勝敗は分かっても7人横に並んでいるから、全部は分からない。

「勝ったのは雰囲気で知らせます。対局中の仲間に声をかけたり合図を送るのは助言と見なされるので、勝ったぞというオーラを出して見える場所に立ったりします」(天野倉さん)

「相手が投了したら『ありがとうございました』を大きめの声で言ったりもします。勝勢になったら駒音を高くする人もいますね」(伊藤さん)

 

 それぞれの対局に集中していても、常に仲間のことは思っている。

 2019年の東大将棋部の主将・藤岡隼太さんは「とにかく熱い」(天野倉さん)。