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「そこからか」1年生が驚いた団体戦にかける本気度

 無事に東大に合格し、入学早々の個人戦では準優勝と順調な滑り出しだった天野倉さんは、さっそく団体戦メンバーに抜擢された。

「ずっと東大将棋部に憧れていたけれど、大学将棋は団体戦重視というのはよく分かっていませんでした。団体戦への本気さに驚くことがありました」(天野倉さん)

 団体戦の会場に着くと、主将の藤岡さんが何やら真剣な顔をして、天野倉さんを呼ぶ。スマホの画面を見せて「これなんだけど」。「え?」。そこには、天野倉さんの「団体戦、頑張るぞ!」のツイートがあった。

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「こういうことを書くと、今日の団体戦に天野倉が出るのが他の大学のメンバーに分かっちゃうからダメ。気を付けて」

「……分かりました」

 天野倉さんは「大学将棋は情報戦とは聞いていたけれど『そこからか』と思いました」と笑う。

 

 注意した藤岡さんは「僕も1年のときに同じことをして先輩に注意されました。大学将棋の団体戦はどういうメンバーがどの順番で出るか『オーダー』の読み合いも大事なんです。相手には情報を与えず少しでも読みにくくしたほうがいい」と語る。

1年間部長を務めた者が次の主将

 大学将棋の団体戦のルールは独特だ。7人制の団体戦では、14人を順番を決めて登録する。その14人から試合ごとに7人を大将、副将、三将、四将、五将、六将、七将と選んで出す。相手も同じように出して、大将は大将同士、副将は副将同士で対戦するわけだ。このとき、1~14の順番が前後してはいけない。大将を2番、副将を4番、以下5番、7番、11番、13番、14番というように、順番は変えないまま選手を選んでいく。

 団体戦のために、強い14人を選び、次にその14人の並べ方を考え、さらに対局ごとに7人を選ぶという作業が必要になる。東大ではこれは主将の役目だ。一方、部長は部の事務的なことをまとめるのが仕事で、外部からの依頼についても部長が対応する。1年生の終わりから1年間部長を務めた者が次に主将になるのが、東大の伝統だ。

伊藤蓮矢さん

「藤岡さん、伊藤、天野倉と三代続けて、学年で一番強い者が部長~主将となっていますが、これはたまたまです」(2020年主将・伊藤さん)

「自分は分かりませんが、藤岡さんも、伊藤さんも人望があり、この人しかいないなという雰囲気で部長になったと思います。藤岡さんの時は、みんな藤岡主将を王座戦で優勝させたいと思っていました」(天野倉さん)

 他大学には、オーダー決めの専門の部員が主将や部長と別にいることもあるそうだ。主将も部長も任期は1年で、12月末の王座戦を終えてから交代する。