「天野倉は研究面でプロに負けてない」
そして対局。ABEMAのスタジオ「シャトーアメーバ」での対局で、ABEMAで解説なし生中継された。天野倉さんの研究の成果は発揮され、序盤からジリジリと評価値を上げていく。熟考する天野倉さんの頭は何度も盤にかぶさった。89手で佐藤八段投了。またZoomで部員同士盛り上がりながらABEMA中継を観ていた藤岡さんは、こう振り返る。
「天野倉は研究面でプロに負けてないと思いました。本当にすごい。天野倉が勝てるなら自分もプロに勝てるかもなんて思いません。天野倉だから勝てる」
シャトーアメーバでは、天野倉さんにも控室が用意されていて、3回戦と4回戦の間には、近くのイタリアンでランチをテイクアウトした。それを食べながら、モニターで終わった対局を早送りで観る。自分の対局の評価値や最善手が表示されるのは初めてで面白かった。と同時に「自分の頭がかぶさって盤が見えないことにも気が付きました。視聴者に申し訳ないので、次は引っ込めることにしました」。
「将棋ソフトは序盤と勝ち方を飛躍的に進歩させた」
そして4回戦、天野倉さんは終盤の入り口まで阿部健治郎七段に離されずについていく。途中、阿部七段があぐらに足を崩した。
「気を使われて自分にも足を崩していいよというサインなのかなと思いました。でも、そのまま対局を続けました」
終盤差がついて敗れたものの、阿部七段は、朝日新聞の取材に「天野倉さんは中盤がすごく強かった」とコメントし、こんなツイートをした。
〈10年前のアマも熱心に研究していた。独自戦法が多く、研究精度が低かったから、プロがチャンス無しで完敗することは珍しかった。 将棋ソフトは序盤と勝ち方を飛躍的に進歩させた。一定以上の強さのレベル(アマ六段以上)で、棋力の平均化が進んでいることを、朝日杯天野倉アマ戦で再確認しました〉
天野倉さんにこのツイートについて聞くと、
「ソフトの登場で序盤がプロに近い精度で調べられるようになったのは、アマにとってはとても夢のある話だと思います。実力を評価していただいて嬉しいです」
朝日杯では「プロの将棋ではあまりない、独自の形を見せたい」というのが1つの目標だった。佐藤八段戦では勝っただけでなく、ソフト研究で掘り下げた対抗系の独自の将棋を見せられたことにも満足している。